オリジナル楽器の演奏を考えるブックリスト

巷に氾濫するセンチメンタルな名曲解説やCDガイドとは違う、古典を演奏するとはどういうことかを正面から捉えた優れた書物を紹介します。ご損はさせません。

200CD クラシック音楽の探求 古楽への招待

, , 立風書房, , ISBN:4-651-82029-8

バッハ以前の「古楽」からオリジナル楽器によるロマン派の演奏までをカバーし、代表的な演奏家や楽器という切り口からCDと共に紹介する。これからこういうジャンルを聴いて見ようという人には格好のガイドブック。きちんとした知識のある人たちが丁寧に書いていると思う。

古楽の復活−古楽の「真実の姿」を求めて

著、有村祐輔監訳, , 東京書籍, , ISBN:4-487-75317-1

メンデルスゾーンによるバッハの「マタイ受難曲」の復活上演から説き起し、ドルメッチ、ランドフスカなどのパイオニアの活躍を経て今日の古楽演奏の動向までの1世紀半を、膨大な資料を基に解説する。情報量が多すぎて消化不良になりそうだが、古楽演奏の意義を考えるうえで重要なヒントをたくさん与えてくれる。

クラシック音楽の20世紀 第4巻 古楽演奏の現在

関根敏子監修, , 音楽之友社, , ISBN:4-276-12194-9

いわゆる「古楽」の演奏家たちにスポットを当て古楽演奏の現在を解説する。必要にして十分な情報が手際よく整理されており、基本レファレンスとして活用できる。

現代思想 1990.12臨時増刊 もう一つの音楽史

,青土社

タラスキン、ザスローといった研究者・批評家の論文からホグウッド、インマゼールのインタビューまで、なかなかお目にかかれない面白い素材を集めた企画。ちょっとひねくれているとも言えるが、興味深い視点がたくさんあって、いかにも「現代思想」らしい。

鳴り響く思想−現代のベートーヴェン像

大宮眞琴谷村晃前田昭雄監修, , 東京書籍, , ISBN:4-487-79132-4

ベートーヴェンの音楽、楽譜、演奏、社会などいろいろな面について、日欧20人の研究家の最新論文を集めた書物。「楽聖」ベートーベンを冷静な目で分析し、新しい光を当てている。一般書でこのようなきちんとした論文が読めるようになったことはすばらしいと思う。演奏や楽譜に関する論文ではもちろんオリジナル楽器演奏と通じる重要な論考が読める。

ベートーヴェン研究

, , 春秋社, , ISBN:4-393-93145-9(新装版1998)

ドイツのベートーベン・アルヒーフで長年研究に携わり、楽譜の校訂なども行なってきた著者(故人)の業績から、一般にも読まれるべき論文やエッセイを集めたもの。特に自筆譜や初演パート譜などの資料に基づく分析は、音友や全音のポケットスコアしか知らない者には、眼から鱗が落ちる思いだろう。オリジナル楽器の演奏も同じ精神である。

こだわり派のための名曲徹底分析 ベートーヴェンの<第9>

, , 音楽之友社, , ISBN:4-276-13073-5

タイトルのとおり、徹底的に楽譜にこだわった「第9」の詳細な分析。自筆譜はもちろん、献呈譜、初版、パート譜、編曲譜など、あらゆるテクストを動員して、ベートーベンの意図を探っていく。前出の児島論文では第9は扱われていないので、その点でも貴重である。もちろんオリジナル楽器演奏への目配りも抜かりはない。

楽譜の文化史

, , 音楽之友社, , ISBN:4-276-37067-1

印刷楽譜の成立を、文化史の観点から捉えて説き起こした読みやすい本。音楽をとりまく当時の社会を見る意味でも面白いが、何より我々が演奏の拠り所としている「楽譜」がどのようにして印刷物として成立したかを再考することができ、楽譜を鵜呑みにすることがいかに危険かをよく理解できよう。Breitkopf社の歴史を知って蘊蓄を垂れることもできる :-)

古楽とは何か -- 言語としての音楽

著,樋口隆一許光俊訳, , 音楽之友社, , ISBN:4-276-20370-8

歴史的考察に基づいた演奏の先端を歩み、今やウィーンフィル、ベルリンフィルにも定期的に登場するアーノンクールが1982年にまとめた、彼の音楽に関する論文集。18世紀以前のヨーロッパ音楽は修辞学の伝統に則った「音による言語」として機能していたことを強調し、それを理解し再現するためには様々な研究や知識が必要であることを説く。もちろん、それは博物館的な興味なのではなく、それによって音楽が現代においても「言葉」として蘇り、生命を得るということが重要なのだ。

200CD モーツァルト

, , 立風書房, , ISBN:4-651-82034-4

この「200CD」シリーズはなかなかユニークな切り口のCD案内を出している。「モーツァルト」も期待に違わず、ただの名盤案内にとどまらない掘り下げた内容だ。モーツァルトの曲の9割はオリジナル楽器の演奏で聴くことができるそうで、この本で取り上げられるCDもかなりの割合がオリジナル楽器によるもの。そして単に演奏評を並べるのではなく、なぜこのような演奏のアプローチがなされたかを、作品の背景にまでさかのぼって分析している。