アーティストの一言
(古い)雑誌・新聞に掲載された音楽家のインタビューから一言を抜粋
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ジャン・イヴ・ティボーデ (FM fan 96-#14)
声楽の伴奏もし、オペラも好きなことについて
「オペラからは、いろんなインスピレーションを受けます。フレージングやレガート呼吸法など、音楽的なことをたくさん学びました。ピアニストの最終的な夢は、ピアノを歌わせることで、もちろんそれは不可能だけれど、いつも目標にしているんです」
赤いソックスに執心している?
「いつも赤いソックスしか履かないわけじゃなく、コンサートで赤いソックスを履くんです。もう8〜10年ほど前からのことですが。もともとはアメリカで最初にこの試みをしました。アメリカでは若い人たちにクラシック音楽はあまり浸透していません。だからもっと身近な存在に感じてもらいたいと思ったんです。今では燕尾服に派手な色のベストを着て(ジャンニ・ベルサーチのデザインです)、それに赤いソックスを履いているんです。カラーってとても重要だからね。でも、ほんとうに好きな色は黒なんです。」 -
藤原 真理 (FM fan 96-#14)
「私、朝からステーキ食べて午前中の練習を乗り切るんです。食事はとても大切で、できることならおいしいものを食べたい。同時にいろんな汗を流すことも大切。練習やステージの汗だけではなく、ジムに行ったりスキーをしたりしています。スキーをした後は楽器が軽く感じられるし、体力維持には一番。本当はシャモニーですべりたいんですが(笑)」 -
梯 剛之 (FM fan 96-#14)
94年チェコ国際盲人弱視者のための音楽コンクール、エットリンゲン青少年ピアノ国際コンクールで1位。95年からウィーンで研鑽
「四季の変化を体験することによって、音楽と一体化した感じ。それに(日本語以外の)言葉を吸収することによって、音楽の表現の仕方が変わったなーと思う。ドイツ語の韻のふみ方やイントネーション、ニュアンスなど、言葉と音楽は深い関係にあると思うんです。」 -
グスタフ・レオンハルト (FM fan 96-#13)
「バッハはもっとも自分の心に近く、バッハを弾いていると作品のおもしろさ、深さにどんどん魅せられていってしまうのです。いまでもこの気持ちは変わりません。和声的な展開、フレーズの絶妙なつなげかた、多彩なリズム、曲の構成など凡庸なものはひとつとしてありません。バッハはギャラント・スタイルを先取りしていたような、次の時代を見ていた面もありますし、また一方、パレストリーナのような前の時代の様式を取り入れた部分もあります。音楽が非常に多彩で、とてもコンパクトにまとまっているかと思うと、次に長いフレーズが出てくる。演奏する側の気持ちを常に刺激します。」 -
クラウディオ・アバド (FM fan 96-#12)
ザルツブルク音楽祭でベートーベンの第9を指揮・ライブ録音して
「音楽学者の協力を得て自筆楽譜を根本的に見直したのだが、現行の慣用楽譜にかなりの間違いがあることを発見しました。今回フレージングやテンポをベートーベンの“オリジナル”に従って演奏したので、従来の演奏とは異なる部分が出てきたのは確かです。それと、ベートーベンが影響を受けたハイドンを研究すること、ベートーベンのほとんど未知の作品、例えば劇場のための付随音楽である『レオノーレ・プロハスカ』や『エグモント』全曲などを実際に演奏することで、より深くこの作曲家を理解することが出来ました」 -
アレクセイ・スタルノフ (FM fan 96-#12)
95年のショパン・コンクールで1位なしの2位
「結果に関してはもう仕方がないけど、あれに関していいたいことは山ほどあるよ。ぼくのショパンは伝統的ではないといわれたけど、モーツァルト的な解釈を持ってショパンを演奏するとああいう形になるんだ。ショパンとモーツァルトは感性が酷似しているし、作品には幸福感と悲劇性が混在しているしね」 -
矢部達哉 (FM fan 96-#12)
「オーケストラ活動が比率的に最も多く、心のなかでは柱になっている感じですが、都響での最初は、それこそ『田園』も『未完成』も、すべて初めてやる曲ばかり、それを追うのに必死。そのころより最近の方が、コンサートマスターって難しいなあと思うようになりました。あるハードルをクリアすると、さらにクリアしなければならないことが見えてくる。バイオリン・セクションひとつリードするにしても、些細な心の揺れがすぐに伝わってしまうとか、今まで気づかなかったことが分かってくると、なかなかコワイですよ」 -
許可(シェイクゥ) (FM fan 96-#11)
二胡(胡弓)のパガニーニと称される代表的奏者
「音色のやわらかいもの、かたいもの、と、曲ごとに楽器を持ち替えています。蛇の皮を張った胴の形や楽器の長さ、2本の弦の太さで音が違う。その豊かな音の違いが表現の幅を生む。でも基本的に楽器は道具。伝統を学び、革新し、道具を使って何を表現するかが問題。まず技巧そして音楽性と歌う心です。それがあるものなら何を聴いても気持ちいい」 -
ミシェル・ベロフ (FM fan 96-#10)
「...これは指揮をしたこととも関係あります。...ドビュッシーを弾くときにオーケストレーションを考えるようになりました。響きを十分に考慮し、イマジネーションを広げていくんです。よくドビュッシーは印象派とか色彩派といわれますが、私はこれには賛成しかねます。ドビュッシー自身もこのカテゴリーに入れられることは好まなかった。印象派というとモネの絵に代表されるような霞がかかったようなおぼろげなイメージを頭に描く人が多いのですが、ドビュッシーの音楽はもっと正確でクリアなものを求めている。彼はペダルを踏みすぎることを嫌った。ですから私もペダルには最大限気を使います。鋭敏な耳をもって音を聴き分けコントロールしなければなりません。ドビュッシーの音楽は淡くぼんやりしたものではないのですから、ペダルでもやもやさせては危険です」 -
神谷百子 (FM fan 96-#8)
「マリンバはリズミックとメロディックの両面を持っているのが魅力。好みのマリンバの音は素朴な音、木の音。曲によって必要な音は探すけど凝ったことはしません。もう少しバチで遊べるようになりたい」 -
リッカルド・シャイー (FM fan 96-#8)
「ほくにはもともと、自己批判といいましょうか、自己分析といいましょうか、そのようなことがつよすぎるきらいがあるので、先へ先へとすすむのが難しいところがあります。それが、おそらく、指揮者としてやっていくうえで、ぼくにとっても難関のひとつになっているように思われます。しかも、まだ、そのことについて自分のなかで十分に解決されているとはいえないのですが・・・」 -
ペーテル・ヤブロンスキー (FM fan 96-#7)
「ただ自分の直感を信じて演奏しています。ペダルに関しても、自分が美しい音だと感じればそれが一番だと思っていますから。もちろん先生や親しい友人の助言には耳を傾けますが、批評はほとんど読みません。演奏のよしあしは自分が一番分かるものなのです。だから自分の音楽感を磨くしかないのです。まだ学生のころ、スクリャービンのピアノ・ソナタ第9番を演奏会で弾いたとき、途中でまったく次の音符が出てこなくなってしまい、3〜4ページ飛ばして弾いてしまったことがあります。そうした失敗も結局自分で償うしかないんですからね。他人にいくらほめられても、喜べない状態の時は目いっぱい落ち込むんです」 -
鈴木秀美 (FM fan 96-#6)
「自分がその曲に感動して泣いているうちは他人は泣いてくれません。自己満足の演奏に終始してしまうから。かといって自分が感動ゼロの状態ではダメ。そのバランスが難しい。このバッハも自分がずっと感動してきて、いまようやくそれが自分のなかで咀嚼できたため、それを伝えたいと思ったんです。でも、いつでもスイッチをひとひねりすると自分が100パーセント感動できる状態なんですよ」(CDJ 96.2)
「現代のチェロの演奏で“これは違うなあ”と思うのは、第3番や第4番のブーレのテンポが遅すぎること。アクセントの位置を誤って、ブーレとガヴォットが同じ拍子に聴こえるものまである。“この曲を自分がどう解釈するか”という以前に、アルマンドだから、サラバンドだからこうでなければ、という枠が先にあるんです。...[バロックダンスの伴奏をしていると]音楽の名の下に変なルバートをかけたりすると、彼らは途端に踊れなくなる。完全にイン・テンポで、なおかつ音楽が音楽として生きていなければならないんですね。」 -
アンナー・ビルスマ (FM fan 96-#5)
「楽器のためにはガット弦がいい。スチールは大きな音で、皆同じ音になってしまう。アメリカのホテルの話と同じで、どれも同じというのは好みません。ガット弦はとても美しい音がしますから、ビブラートの使用を減らしてます。ビブラートは感情的になってるときに使うもの。人が話すときでも感情的になると声が震えますね。同じ理屈です。すべての時に使うと面白くないでしょ」 -
ケント・ナガノ (FM fan 96-#5)
「バーンスタインに指揮を習っていた時のことですが、彼の家でチャイコフスキーの6番を勉強していたんですが、第1楽章のハーモニーの展開部のところで、細かい部分を再発見して、実に嬉しそうな顔をしたのを忘れることができません。この曲を、バーンスタインはもう、何百回となく演奏しているのに、その発見にすごく興奮している。やはり指揮者とは、このようにいつでも研究と勉強を積み重ね、常にフレッシュな感覚で新しいものを発見する心が必要なのです。それが人間の成長に、どれほど大切なことなのか、私はその時に本当に痛切に感じました」 -
ヤーノシュ・シュタルケル (CDJ 96.2)
「チェリスト仲間にも詩的な表現が好きな人がいるが、私はそういう概念を持ち合わせていないんだ。私にとって言えることは、音楽は言葉であるということ。まず、ひとつのアルファベットがあり、それが単語になり、それがつながると文章になり、それば意味をなすつながりとなる。演奏とはそのプロセスを経て、自分の言いたいことを音で言い表すに過ぎない、ということ。だから、それを文学的にあれこれ表現するのは好きではないんだ」 -
ダヴィッド・ゲリンガス (FM fan 96-#4)
「今回の録音でも、6番は5弦のチェロを用いています。...バッハが、どういった響きをイメージして作曲したのかといったことなど、この楽器に教えられることも多く、5弦の古い楽器が新たな道を開いてくれた、言ってみれば、音楽的真実により近づくことができたといえるでしょう。...5弦の響きを知った以上、かつて演奏していたようには、バッハの無伴奏組曲を演奏できなくなりました」 -
ワレリー・ゲルギエフ (FM fan 96-#4)
キーロフ歌劇場をロシア最高のオペラ団に育て上げ、96年11月には同歌劇場を率いて来日する。
「これだけ懸命の努力をするのは、素晴らしいアーティストを育てる喜びがあるからです。素晴らしい歌手とオーケストラで、音楽祭を企画したり、コンサートやTVに出演します。3年前からテレビの1時間番組を企画し、解説もしています。劇場は2千人だけど、テレビでは2万人の人にアクセスできる。頭を使って新しい聴衆を獲得する努力が必要です。そんなふうに、自分の力のすべてをキーロフ歌劇場に注いできました。1年のうち225日、彼らと一緒です。まず力を一つのところに集中する。この集中力こそパワーです」 -
イーヴォ・ポゴレリッチ (FM fan 96-#3)
「いままでいろんな曲をまんべんなく弾いてきたつもりですが、考えてみると結構メジャーな作曲家に限られていたような気がします。そこで、今は2つの柱を考えています。ひとつはひとりの作曲家を掘り下げ、その人間性に迫る方法。これはある作曲家の自画像のような形で、彼の人生を通していくつかの面を取り上げるというものです。この場合は異なった作品のなかに共通項をもつもの、または作品を対比させて組み合わせるなどさまざまな選曲が考えられます。もうひとつはサイクルという形で、全曲録音とか、全集というようなものです」 -
今井信子 (FM fan 96-#3)
ビオラの小品集「ビオラ・ブーケ」を発表
「ビオラには良い曲がほかにもたくさんあるんです。いつも、あれがやりたい、これはどうかな、と考えてメモをつけたりしています。ただビオラというとたいていの人は、ゆっくりしたエレジーふうの曲を連想しがちですよね。でもわたしは、それだけでない、明るいビオラ、透明なビオラの面を、この楽器にしかない音で出していきたかった」 -
エルダー・ネボルシン (FM fan 96-#2)
1992年のサンタンデール・コンクールで優勝。1月に初来日する。
「大好きなのがホロヴィッツで、彼はだれよりもすばらしくピアノをうたわせることができたと思います。...11歳のときに聴いたグールドにはショックを受けました。バッハの『イタリア協奏曲』で、その音を一生忘れることはないと思います」 -
パーヴォ・ヤルヴィ (FM fan 96-#2)
96年のシーズンからバーミンガム市響の首席客演指揮者に就任する。父はネーメ・ヤルヴィ。
「小さい時からリハーサルについて行って、父が指揮するのを見ながら育ったし、弟や妹を始め家族全員が音楽家ですから、指揮者の道を選んだのも、とても自然なことでした」 -
ウラディーミル・アシュケナージ (FM fan 96-#1)
「私の個人的な意見ですが、モーツアルトはうたうように演奏するのが一番だと思っています。ピアノ作品だからといって特別に考えてはいけないと思います。オペラや交響曲や室内楽ももちろんですが、モーツアルトの作品はすべて旋律が豊かにうたっている。...モーツアルトを勉強するときに大切なのは、とにかく偉大な声楽家の演奏をよく聴くことです。そこから歌心をつかむことができると思います」
「ショパン・コンクールに参加して入賞賞金を受けたときも、オーケストラの楽譜とレコードばかりかって帰りました。そのころはロシアには十分に楽譜がなく、国に戻るや有名な指揮者や演奏家がどこからか聞きつけ、『きみ、あの楽譜をもっているんだってね』といって家にたずねてきました。...当時は楽譜を見ているだけで幸せな気持ちになれました。このころ培った音楽に対する深い愛情が、今日の指揮活動に役立っているのではないかと思っています」 -
鈴木理恵子 (FM fan 96-#1)
新日フィルの副コンサートマスター、初アルバム「四季」が発売された。ただいまのめり込んでいるのはパソコンとのこと。
「演奏会の本番は一瞬にかけるみたいなところがありますが、録音は、何度も聴いてもらうことが前提になりますから、少し違うイメージはあります。ただ、自然なつくりの、あたたかい『四季』を録音したかったので、その意味ではそう仕上がって良かったな、って」 -
鮫島有美子 (FM fan 96-#1)
“日本のうた”の成功は、ご主人のピアニスト、ヘルムート・ドイチェさんのアドヴァイスも大きかった。
「最初に歌った時、私たちは日本語だから分かるけど、主人は音楽的に何を歌っているのかが分からないという。それでまず音楽的な感情を自然に表す歌い方を試みてみたんです」 -
仲道郁代 (FM fan 95-#26)
「私はグリーグは“北欧のシューマン”だと常々思っているんです。文学的な雰囲気、自然で暖かみのある旋律、心に響く音の連なりなどすべてシューマンに通じるものがあると思う」
「サンソン・フランソワの弾くドビュッシーがものすごく好きなんです。音に香りがあるでしょ。...たばこの煙をくゆらせている感じがして、まさにフランスのエスプリを感じる。そんなドビュッシーが弾きたいの」 -
田部京子 (FM fan 95-#26)
「ドイツに行ってから本当にブラームスが好きになりましたね。でも、ブラームスはもっとじっくり勉強して本当に自分が納得してから録音したい。いまはモーツアルトに心が動いています。つい先日モーツアルトのコンチェルトの録音を終えたばかりなので」