SMTPとPOP−インターネットのメール

電子メールはインターネットで最もよく使われるアプリケーションですが、それだけに仕組みをきちんと理解して、無用なトラブルは事前に回避したいもの。ここでは3回のシリーズでその基本を整理してみましょう。

電子メールの分業システム

インターネットのメールアドレスはuser@host.xxx.co.jpのような形になっていますね。このアドレスの @ より右側はメールサーバーが働いているホストのドメイン名、左側は利用者(クライアント)のメールボックスを表しています。

アドレスがこのような構成になっているのは、インターネット電子メールではクライアントとサーバーが役割を分担しているからです。ふだん私たちが使っているメールソフト(メーラー)は、メッセージを書いたりメールボックスを読んだりというクライアントの働きをしており、UA(ユーザー・エージェント)と呼ばれます。一方、サーバー側で送信メールを指定のホストまで届けたり、受信メールをメールボックスに配達したりという負荷の大きい仕事を受け持つのがMTA(メール・トランスファ・エージェント)です。クライアントはサーバーを通してメールを送受信し、普通は相手と直接やりとりを行いません。

メールの約束SMTP

利用者がメールを発信すると、送信側のMTAは、まず宛先の @ の右側に記載されたホストのIPアドレスを調べ、TCPによる通信ルートを確立します。このルートを使って実際のメッセージを送るのは、SMTP(シンプル・メール・トランスファ・プロトコル)という仕組みです。TCP/IPを道路やトラックなどの運搬のルールに例えるなら、SMTPは(これらを使って運ばれる)郵便の規則に相当すると考えればよいでしょう。

SMTPは、送信側と受信側が対話しながらメールを転送するようになっています。このやり取りを翻訳してみるとこんな感じです:

(例)

送》 ○○からのメールを送ります
《受  OK。○○からのメール了解
送》 宛先は△△です
《受  OK。△△宛のメール了解
送》 これからデータを送ります
《受  受信準備完了。データの終わりは「.」のみにしてください。
送》 (メッセージ本文...)
   ...........
送》 .
《受  OK。データ受信完了
送》 送信終了します
《受  OK。了解しました

メッセージを受け取ったサーバー(MTA)は、 @ の左側に記されたメールボックスに内容を書き込みます(宛先によっては更に別のホストに転送することもあります)。これでメールの受取人は、メーラーを使って自分のメールボックスを調べ、送られてきたメッセージを読むことができるというわけです。

私書箱を用意するPOP

SMTPによるメールは相手がいつでも応答してくれることを前提としています。専用線などで常時IP接続していれば問題無いのですが、ダイヤルアップ利用者などの場合、この仕組みではメールを受け取ることができません。そこで、プロバイダのメールサーバーに私書箱のようなメールボックスを設けておき、接続したときに自分宛てのメッセージを受け取りにいくという方法が考えられました。これがPOP(ポスト・オフィス・プロトコル)と呼ばれる仕組みです。

POP機能を備えたパソコンのメーラーは、サーバーに接続すると自動的に必要な手続きを行なって蓄積されたメッセージをダウンロードします。受信者はメールボックスのメッセージを直接読むわけではないことに注意してください。POPによって自分のコンピュータに転送されるので、接続を切ってからゆっくり読むことも可能だというわけです。

もっともPOPは受信専用ですから、ダイヤルアップ利用者もメールの送信にはSMTPを使わなければなりません。ホスト上のSMTPサーバーにメッセージを送り、そこから目的の相手に配送してもらうのです。メーラーの設定をみると、SMTPとPOPの両方のサーバーを記述するようになっていますね。メールのためだけに2つも手続きがあって面倒に感じられるかもしれませんが、こうして役割を分担することで、効率の良いメッセージの交換が可能になっているのです。

(NetFan, March 1997)

関連するRFC

3回の予定でシリーズとするはずだったが、NetFan誌が休刊したため、次回と合わせた2回分のみとなった。不足分は拙著『プロフェッショナル電子メール』、当サイト内インターネットでの日本語メール電子メールはじめの一歩のページを参照。