大津直子の音楽ノート

【第2回:96.2.5】

みなさん、こんにちは。
さて、前回は、昨年の演奏会の“ベスト5”をご紹介しましたが、今回は、やはり昨年の演奏会で、ちょっと腹が立ったものについてお話しさせてください。
1つはイーヴォ・ポゴレリチ独奏の読響の定期(チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番)。そしてもう1つは小林研一郎指揮のハンガリー国立管弦楽団(ドヴォルザーク 交響曲第9番 他)。
この2つには共通点があります。それは両者とも実力がキチンと発揮されていなかったという点です。


ポゴレリチはステージに出てきた時から、見るからにカッタルそうで、ヤル気、ありません…という感じ。演奏も所々に彼の凄まじさがチラチラするものの、結局、最後まで乗り切れないまま終わってしまいました。

後日、新聞を見ると、彼は来日前から体調不良だったそうで、リサイタルの曲目を自信を持って弾ける曲(得意のレパートリーということでしょうか?)に変更するとの告知広告が出ていました。

「まあ、それなら仕方ないか……」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
でも、彼は一昨年(94年12月)に来日した際も、発熱したとかで、演奏会の途中の休憩を取らずに、一気に弾いてしまうという暴挙(?!)をやってのけたという、前科があるのです。もちろん、その結果が思わしくなかったことは、言うまでもありません。

彼くらいのピアニストになると、リサイタルのS席で、1万円かかります。
「こんな演奏のために、1万円も払ったんじゃないやいっ!!」と、思わず叫びたくなるのが人情でしょう。それなら、どこかで美味しい物でも食べた方が、ずっと幸せになれるじゃないですか。演奏会に行く人はそれなりの“価値”を求めて、お金を払って聴きに行くわけです。演奏をしてお金を稼いでいる人には、それなりにプロ意識を持って臨んでもらいたいと思うのは、トーゼンじゃないでしょうか? それを1度ならず、2度も続けてなんて……、まったく、プンプンですっ!!

でも日本人って、拍手や「ブラボー」はするけれど、ブーイングって、まず、しませんよね(かく言う私もそうですが)。それに“裸の王様”じゃないけれど、“権威”にはとっても弱いから、有名な人だとすぐにブラボーしちゃう。
もしかしたら、そのあたりに演奏家を増長させている原因があるのかもしれません。

ポゴレリチについて、こんなにキビシイことを言うのも、私は彼がクリスティアン・ツィメルマンと並んで、この世代を代表するピアニストだと思っているからです(だからこそ、1度裏切られても、もう1度聴きに行ってしまったのです。哀しい女心ですねぇ)。彼にはグールドに匹敵するような、音楽に対する大胆なイマジネーションがあります。それが最大の武器でしょう。ちなみに、私が一番よく聴く彼のCDは、バッハのイギリス組曲を収録したもの。実にシャープで(グールドの演奏と比べてみてください)、気持ちがピシッと引き締まる気がします。


コバケン&ハンガリー国立は、11月20日〜12月10日の20日間に、全国で17公演を行う超過密スケジュールのうえ、交響曲7曲を含む全14曲という、演奏曲目の多さで、自滅した感があります。しかも、これらのシンフォニーの中には、マーラーの第3番や、ベートーヴェンの“第九”など、合唱付きの作品も含まれていましたが、それらの作品を演奏する前日には、全く別の場所で、全く別の作品の演奏会をやっているわけですから、ステージ・リハーサルのみで、本番をやっているとしか考えられません。こういうのも、ちょっとびっくりです。
私の周りでは「奴らは日本に外貨を荒稼ぎしに来たのか」と怒る輩も出る始末。

ただし、東京の初日(全体の4日目)に聴きに行った人が「渋いけど、とても良かった」と言っていたことは、彼らの名誉のためにも付け加えておきます(ちなみに、指揮はエルヴィン・ルカーチ)。でも、逆に言えば、このことは、彼らの敗因が、過密スケジュールと演奏曲目の欲張り過ぎにあったことを裏付けているのではないでしょうか?


とにかく、音楽家には自分のベストが出せるように努めてもらいたいものです。
こんなことを言わなきゃならないなんて、とても情けない気もしますが……。
実力のない人については、諦めもします。でも、高い料金を出させておいて、そのうえ、いいかげんな演奏をされてはたまりません。「金、返せっ!!」と言いたくなります。このあたり、日本の聴衆がもっとシビアになるといいなと思うのですが…。
でも、まずは、音楽評論家あたりが先でしょうか?

それでは、また。

ご意見や反論などがありましたら、ぜひお聞かせください



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