大津直子の音楽ノート

【第5回:96.5.1】

みなさん、こんにちは。
またまたご無沙汰してしまい、どうもすみませんでした。
さて、今回は「若手音楽家、先物買いのススメ」というテーマで、お送りしたいと思います。どうぞよろしく。

昨年の秋のことですが、ある日本人の若手ピアニストのリサイタルを聴きに行ったという話を、某雑誌の編集者にしたところ、「あの人の演奏って、いいんですか?」と怪訝そうな顔をされたことがあります。確かに若手演奏家って、当たりはずれが多そうで、リスキーな感じがしますよね。せっかくお金を払うのなら、多少、大枚はたいても、いい演奏を聴いて満足したいと思うのは当然です。それに東京のように、世界中から入れ替わり立ち替わり、音楽家がやってきて演奏会を行っていると、ある程度メジャーなアーティストだけに絞っても、(時間的にも経済的にも)とっても行き切れないというのが現状でしょう。そうなると、よっぽど気になる若手くらいにしか、目が行かなくなるのも仕方ないかもしれません、でも、こういう状況下だからこそ、より意識的に若手演奏家に目を向けて、彼らとじっくりと付き合ってみてはどうかなと思うのです。

よく「日本の若い女性はブランド好き」と、皮肉交じりに言われますが、ブランドを好むのは、決して若い女性だけでなく、クラシック音楽愛好家にも言えるのではないでしょうか?「やっぱり、ネームバリューのある人の方が、素晴しい演奏をするから……」と言うのは、ブランド好きの女の子が「やっぱり、ヴィトンのバッグは丈夫で、使いやすいから……」と言うのとおんなじだと思いませんか? もちろん、素晴しい演奏に接したいという気持ちは、わかります。でも、そこから1歩押し進めて、これからの音楽界を背負って立つ若い人達を暖かい目で見て行くということも、とても重要なことだと思うのです。

ときどき、日本の若手演奏家はテクニックはあるけれども、個性がないとか、音楽的に面白くないなどの意見を耳にします。でもその責任の一端は、我々聴き手の側にもあると私は思うのです。どんな芸術にでも言えることですが、アーティストには自分の発したメッセージを受け取ってくれる人がいることによって、初めて成長できる部分があるのです。ですから、日本に次世代を担うような、本当に優秀な若手が育っていないとしたら、それは音楽家自身の資質や教育のシステムなどの問題だけでなく、聴き手の音楽への関わり方……つまり、自国の音楽家にはろくに目もくれず、外来の音楽家をむやみにありがたがる現状……にも、問題があると素直に受け止めるべきではないでしょうか。

私自身は、まだ未完だけれど(あるいは知名度は低いけれど)、キラリと光るものを持ったアーティストにめぐり逢うことに、ものすごい快感を覚えます。
よく、本当に相撲の好きな人は、幕下力士の取組から国技館に行ってしっかり観察して、「こいつはモノになりそうだ」と思う力士をひいきにして、成長を見守ると言いますが、まさにそういう感じです。自分が密かにひいきにしていたアーティストが有名になってくると、やっぱりうれしいし、自分の目(耳?!)もまんざらじゃないよなぁ……などと、1人で悦に入ったりできるし……。もちろん、自分の思ったようには成長しない場合もありますが、そこはじっとがまん、がまん……。だって、高名な音楽家の演奏を、高いチケットを買って聴きに行っても、ちっとも感動できないことだって、よくあるのですから……。
先物取引をするような気持ちで、新進演奏家の品定め(?!)をするのも、これまた1つの楽しみ方ではないでしょうか? 演奏家にとっても、多くのお客様が聴きに来てくれることは、とっても大きな励みになるはずです。

今回は特別に、私のおすすめの若手アーティストを何人か、ご紹介しましょう。基本的に20代の人のみに絞りますが、30代の人でもあまりメジャーでないと思われる人は、応援の意味も込めて、ピックアップしたいと思います(逆に 20代でも、バリバリに活躍している人は外します)。

まずは、大激戦区のピアノから。軽快・俊敏、スマートな演奏を聴かせる ペーテル・ヤブロンスキー。 現在のピアノ界は彼のほかにも、 ムストネンや、 アンスネスネボルシン など、北欧出身の若手が注目の的です。それから、85年のショパン・コンクールで、 本選に選ばれずに話題になった ケマル・ゲキチ も気になる存在(私はまだ実演に接していませんが)。ロシア系では、 リリヤ・ジルベルシュタイン、 久々のウィーン系のピアニストとして、 シュテファン・ヴラダー も実力派のピアニストです。それからチェンバロでは、前回も紹介した 曽根麻矢子

ヴァイオリンは、ロシア系の マキシム・ヴェンゲーロフ と、アメリカの ギル・シャハム。 それに、クールで現代的な演奏を聴かせる トーマス・ツェートマイア、 ドイツ出身の クリスティアン・テツラフ などなど……。日本人では 矢部達哉 を挙げておきます。
ヴィオラでは、 タベア・ツィンマーマン。 チェロではまず、日本人の 向山佳絵子、 それからイギリス出身の スティーブン・イッサーリス (彼はガット弦が好きで、グァタニーニにガット弦を張って弾いているそうです) と、ハンガリー出身の ミクローシュ・ペレーニ

管楽器ではクラリネットの ポール・メイエ (フランス)と、ウィーン・フィルの首席奏者の エルンスト・オッテンザマー くらいしか、思いつきません。ごめんなさい!! 今回は歌手と指揮者はパスさせて いただきます。

いかがでしたか? 「こんなスゴい人を忘れているじゃないか!!」なんてこともあるかもしれませんが、そんな場合はぜひ教えて下さい。どうぞよろしく。

♪ さて、私事で大変恐縮ですが、私、2週間ほど旅に出ます。
そのため、音楽ノートも、1か月くらいお休みさせていただくことになると思いますので、何とぞご了承下さい。
(えっ、なんだって!! いつものことじゃないかって…。ごめんなさいっ!!)



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