大津直子の音楽ノート

【第6回:96.7.18】

みなさん、お元気ですか? 大変ご無沙汰してしまい、大変申し訳ありませんでした。
実は私、5月に半月ほどイタリアに行っていたのですが、日本に戻って来たら、信じられないほどのパニック状態に陥ってしまいまして……。
気がついたら、早くも2か月が経ってしまったという訳です。 やれやれ。
さて、今回の旅行は、音楽を聴くことがメインではなかったのですが、フィレンツェではちょうど5月の音楽祭をやっていて、2公演聴いて参りました。
今回はそんな事を中心に、お話をさせていただきたいと思います(予めお断りしておきますが、私はイタリア語の素養が全くありませんので、辞書などを引きながら書いている次第です。何か間違いがあるかもしれませんが、何とぞご容赦ください)。

フィレンツェ5月音楽祭(Maggio Musicale Fiorentino)は、1933年に開始されたもので、今年で59回目を迎えるそうです。現在の音楽監督は、ズービン・メータ、首席指揮者はセミヨン・ビシュコフ。オーケストラは、フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団〔Orchestra del Maggio Musicale Fiorentino〕です。“5月音楽祭管弦楽団”と言うと、この時期だけの季節労働者的なイメージがありますが、パンフレットを見ると、7〜8月の公演も、さらには9月に“フィレンツェ歌劇場”と銘打って来日するのも、みーんな“フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団”となっています。私が読んだ音楽関係の本によると“フィレンツェ管弦楽団”という団体も、この音楽祭に参加することになっているのですが、パンフレットにはどこにも記載されていませんでした。

今年の開催期間は5月2〜6月27日。主な内容は以下の通りです。

オペラ
モーツァルト イドメネオ  ビシュコフ指揮(5公演)
R・シュトラウス エレクトラ  アバド指揮(2公演)
ドニゼッティ ランメルモールのルチア  メータ指揮(7公演)
ダッラピコッラ とらわれ人(演奏会形式)メータ指揮(2公演)
(オーケストラは“エレクトラ”のみベルリン・フィル、
あとの2演目は、フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団 )
オーケストラ
アバド指揮 ベルリン・フィル
(ブラームス 交響曲第3番&ベートーヴェン 交響曲第7番)
ビシュコフ指揮 フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団
(ハイドン 交響曲第44番&ベートーヴェン 交響曲第3番)

どうですか? 知名度のわりには意外と規模が小さい気がしませんか?
ザルツブルクみたいに有名人が大挙して押し寄せ、連日、昼も夜もいくつもの会場で同時平行的に演奏会が行われるというのとは、全然違います。ただし、これはプログラムに載っていたものだけで、そのほかにピアニストのルプーのリサイタルのチラシがあったりしましたから、番外編もあるのかもしれませんが……。
街の雰囲気も、決して音楽祭一色というわけではありません。もちろん、あちらこちらにポスターが貼ってあったり、ショーウインドーに楽譜や楽器などをあしらったディスプレイをしている店があったりはしますが、その程度のもの。
観光客にしても、音楽祭目当てという人はそんなに多くないような感じでした。

演奏会のほとんどは、テアトロ・コムナーレ(Teatro Comunale)で行われます。ここは1852年に野外劇場として建設されたもので、1883年に屋根が取り付けられたそうです。さらに1935〜61年に修復され、現在は席数2000くらい。
近代的な感じの馬蹄形のホールでした。
もう1つ、ペルゴラ劇場(Teatro della Pergola)というのが、街の中心部にあります。ここは、17世紀に建てられた古い劇場で、ドニゼッティのオペラやヴェルディの“マクベス”の初演、ウェーバーの“魔弾の射手”のイタリア初演などが行われた由緒ある劇場です。やはり馬蹄形をしており、客席数は1000くらい。白い壁に赤いじゅうたん、そして、シャンデリア……。 風格もあり、ちょうどスカラ座をひとまわり小さくした感じです。今年は“イドメネオ”と、東京バレエ団などの舞踊の公演のみがここで行われました(余談ですが、フィレンツェには、このほかにも幾つかの演奏会用ホールがあるようです。中でも比較的大きいのが、“テアトロ・ヴェルディ”。ここはペルゴラ劇場からも近く、演劇なども行われる多目的ホールらしいのですが、デ・ラローチャやスピヴァコフなどの演奏会のポスターも張られていました。そのほか、もっと小さな会場や教会などで催される、地元の音楽家達の演奏会のポスターやチラシをたくさん目にしました。)

私が聴いたのは、ビシュコフ指揮フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団の演奏会(ハイドン 交響曲第44番&ベートーヴェン 交響曲第3番)と、モーツァルトの“イドメネオ”の2つ。出発前に日本からチケットの予約を試みたのですが、SOLD OUTとのこと。まあ、現地に着けばなんとかなるかな……と思い、フィレンツェ到着後、すぐに問い合わせたのですが、ここでも同じ返事が返ってきました。ただし、演奏会開始1時間前に当日券を売り出すとの情報をゲット。
ちょっと余裕を持って1時間半くらい前に並びに行ったら、あっけないほど簡単にチケットを手に入れることができました。ちなみに、料金は演奏会が35,000 〜100,000リラ、オペラが40,000〜110,000リラ(1リラ=約0.07円。オペラの初日は別料金)。客の入りは、演奏会の方が8割程度、オペラはほぼ満席という感じでした。オペラは劇場が小さい上、日曜日のマチネだったことも影響していたのかもしれません。

ビシュコフは、昨年、パリ管の来日公演で聴いて、とても感心したのですが、今回、特に面白かったのは“エロイカ”でした。ここのオケは、響きに透明感があるのですが、たっぷりと豊かに響かせるというよりは、キリッと引き締まった感じになっています(例えば、弦楽器の重音にしても、弓を素早く動かし、それほどたっぷり使いません。トスカニーニ指揮のNBC交響楽団のような雰囲気といえば、なんとなくお分かりいただけるでしょうか?)。ビシュコフは、各声部、各パーツをはっきりと浮き出させて、それがどんな具合に組み合わさってこの曲ができ上がっているかを、明示するような演奏に仕立てていました。そのため『なるほど、こことあそこは、こんなふうに呼応していたのか……』と気付かされる場面もあって、非常に新鮮でした。
低音が充実したドイツ系の重厚な演奏とは違い、シャープでコンパクト。そして、作品の構造が明確なため、説得力があり、知的な印象を受けます。

オペラは、歌手に傑出した人がいなかったものの、全体としては充分楽しめました。特に合唱団がパワフルだったことが印象的です。序曲では、オケがバラバラで、『おやおや……』とちょっと先行きが不安になったのですが、舞台が進行していくとともに、次第にノリはじめ、クライマックスではさすがの迫力。やっぱり、ツボを心得ているなという感じ。この秋の来日公演も期待できそうです。

さて、フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団の夏から秋にかけての主な予定ですが、6〜7月にメータの指揮で“アイーダ”、7月にブルーノ・リガッチの指揮で“カヴァレリア・ルスティカーナ”、7月12日にチョン・ミュンフンの指揮でヴェルディの“レクイエム”(シエナの大聖堂にて)、それからバレエでは、7月に“コッペリア”、9月に“シンデレラ”が上演されます。
また、8月にはザルツブルク音楽祭とコペンハーゲンの音楽祭に参加、そして9月には、いよいよ初来日という訳です。
さらに10月以降のシーズンでは、浅利慶太演出の“蝶々夫人”(スカラ座で上演されたもの)も上演される予定になっています。

……と、ずいぶん駆け足でしたが、フィレンツェ5月音楽祭の様子が少しはお分かりになられたでしょうか? 実は今回はフィレンツェに3日しか滞在しなかったので、あまり詳しいことはわからないのですが、もし、何か知りたいことなどがあれば、どうぞご連絡ください。できる範囲でお答えできれば……と思っております。

★次回は、こんなに間隔を開けることないようにいたしますので、皆様、これに懲りることなく、今後ともご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

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