大津直子の音楽ノート

【第9回:97.8.9】

6月にボストン・ポップス・オーケストラの演奏会を聴きに行きました。 今回はその話をさせていただきたいと思います。

今回、来日したのは、正確に言うと「ボストン・ポップス・エスプラネード・オーケストラ」という団体です。「ボストン・ポップス・オーケストラ」とは、ボストン交響楽団から首席奏者を抜いたメンバーで構成された団体で、ボストン響のシーズン・オフに活動しています。しかし、もっと頻繁にポップス・コンサートを開いてほしいという、ファンの熱い要望に応えるべく、ボストンやその近郊のフリーの演奏家を中心に結成されたのが、今回の「ボストン・ポップス・エスプラネード・オーケストラ」なのだそうです。つまり、ボストンのポップス・コンサートでは、この2つのオーケストラが演奏しているというわけなのです。

そして、今回の大きな目玉は、何といっても、95年に常任指揮者に就任し、今回が初来日となるキース・ロックハート(1959〜 )でしょう。ボストン・ポップスの常任指揮者と言えば、ご存じの通り、半世紀に渡って君臨したアーサー・フィードラー、そして映画音楽の巨匠・ジョン・ウィリアムズと、とびっきりの“大物”が就任してきたビッグなポストですが、そんな由緒あるポジションに35歳の若者をポ〜ンと抜擢するあたりが、とってもアメリカらしくて、なんだか小気味良いではありせんか。

さて、このロックハートですが、スマートでノリが良く、指揮ぶりも実に若々しくって、スタイリッシュ。音楽面だけでなく、日本語で一生懸命スピーチしようとするようなサービス精神と、ユーモア(ボストンでは宇宙飛行士のコスチュームを着たり、デコレーションケーキのハリボテの中から登場したり……なんてこともするとか)を持ち合わせ、いかにも若い世代のハートをガッチリとつかみそうな指揮者です。事実、彼が常任指揮者に就任してから、若いファン層が増えたとのこと。しかも、なかなかの甘いマスクの持ち主!……とくれば、女性ファンが殺到するのもうなずけます。なにしろ、ボストンでは「愛しているわ!」というプラカードを持った女性がコンサートに出現したというのですから……。日本じゃ、ジャニーズ系のコンサートじゃあるまいし、とうてい考えられませんよねぇ。

まあ、女性ファンのことはともかくとして、音楽では普通、“聴く”という行為がメインとなるわけですが、今回のボストン・ポップスの演奏会では、単にポップス的なレパートリーを演奏するというだけでなく、視覚的な要素をうまく取り入れて、もっと総合的に音楽を楽しんでもらおうとしているのが印象的でした。たとえば「スター・ウォーズ」や「スター・トレック」などの“宇宙モノ”プログラムでは、レーザー光線などを使い、宇宙旅行気分を味わってもらおうというのも、その1例でしょう。

私が聴いた日は、その点、非常におとなしかったのですが、それでも最後に赤、青、白の風船が天井からドドーッとたくさん落ちてきたのには、びっくり。その途端に会場には「わあーっ」という歓声が上がり、とても華やいだ雰囲気に包まれたのです。その意表を突いた心憎い演出に、私も思わず「うーむ。やるなぁ」と感心してしまいました。

こうしたアイディアはロックハート個人のものではなくて、もっと以前からあるものなのかもしれません。でも、彼の就任によって、そうした総合的なエンターテイメント性がより重要視されているのは、間違いないと思います。そして、これだけの“老舗”のシェフに抜擢され、従来の慣習と自分の持ち味をうまくブレンドしながら、新しい時代を築こうといている、彼の手腕は見事だと思いました。従来には存在しなかった、まさしくニュー・ジェネレーション的な指揮者と言えるでしょう。

ところで、東京には10団体ものプロのオーケストラがあるのに、ポップス・オケが1つもないんですよね。ちょっと不思議な気がしませんか? だって、今回のボストン・ポップスの演奏会は、東京だけで5公演も行われたにもかかわらず、週末のチケットは完売、それ以外の日でも、残席は僅少だったとのこと。それだけニーズはあるのですから……。日本っていう国は、アメリカの真似が好きなくせに、音楽におけるエンターテイメントに関しては、二流品のような扱いを受けて、あんまり高く評価されないんですよね。つくづく不思議です。新しい発想のポップス・オケがあったらいいのに……。皆さんは、そう思いませんか?

そこで今回は、私が、“夢のポップス・オケ”を提案させていただきたいと思います。

まず、指揮者はやっぱり、若くてハンサムというのが必須条件。そして音楽的なセンスはもちろん、ユーモアと冒険心も持っていること。指揮ははつらつとしていて、スタイリッシュ。それでもって、腰つきがセクシーであれば、なおGOOD! そうそう、オケのメンバーにも、当然、かっこいい人(もちろん女性も)を入れなくちゃ……。

衣装はマンネリのタキシードなんかにしないで、イッセイ・ミヤケやヨウジ・ヤマモトなどのデザイナーに、斬新でおしゃれなコスチュームを作ってもらう。さらに舞台装置も、元・米米CLUBのカールスモーキー石井に依頼して、アッと驚くような仕掛を作っておく。そしてプロデューサーは、今をときめく小室哲哉か、坂本龍一教授……と、このくらい気合いを入れて、視覚的にも充分楽しめる、本格的なエンターテイメントの舞台を作れば、全国行脚しても採算は取れるだろし、海外公演だって夢でないはず。その名を全国に、いや、全世界に広げられると思うのですが、ところで、どなたか、スポンサーになろうという方はいませんかねぇ?



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