ネットワークがやってきた

目的の確認から始まって準備を重ねてきたシステムがようやくオフィスに到着します。実際の作業をしてみると、なかなか最初の計画通りには行かないことも。それでも、できるだけ柔軟な対応をしながら、とりあえずシステムをスタートさせます。

設計から現場へ

前号まで、慎重にシステムを設計し、ハードとソフトを選定してきました。言ってみればこれまでは机上の議論をしてきたわけですが、ここで舞台は現場に移ります。

最初の設計段階では、中長期的な視点から、新しいオフィスの業務にふさわしいシステムの理想を掲げ、予算や期日という制約の範囲内で、できるだけ良いものが導入できるよう検討してきました。しかし、実際の現場では、「今日の仕事に使う」という非常に短期的な要望が前面に出てきます。また、机上では予測がつかなかった制約の存在が分かり、計画をその場で修正するということも珍しくありません。

システムの導入の現場では、いろんなことが起こります。格好よくいえば臨機応変の判断ですが、別の言葉を使うとドタバタに近い状況。そんな中でも、何とか最初に立てた中長期の理想型を保つような工夫をしながら、設計者はここでは現場監督を務めることになります。

LANが開通する日

これまでに選定した品物の発注を終え、待つこと約1週間。今日はいよいよ製品が納入され、ネットワークの工事とインストールを行う日です。

まず最初に電話工事の業者さんが到着し、LANケーブルの敷設が始まりました。ハブを設置する場所を部屋の隅に決め、そこからどの机に配線するかを打ち合わせれば、あとは業者さんにお任せとなります。今回ケーブルが必要なのは、3台のマッキントッシュを置く机と、プリンタ、サーバー、ルーターの最低6カ所です。もっともサーバーとルーターはハブと同じ場所に置くので、特別な工事は必要ありません。逆に、将来のことを考え、社長と顧問の机にもEthernetを伸ばしておきます。また、来客時にPowerbookでデータベースを見ながら打合せをする可能性も考え、応接スペースにもケーブルを用意することにしました。あとで追加工事を行うと手間もコストもかかりますから、使う可能性のあるところには最初にまとめてケーブルをひいておくのが賢明です。

新オフィスの床には30cm角のオフィスカーペットが敷き詰められています。これは簡単にはがせるので、リボンケーブルのような特殊な10Base-Tケーブルを用いて、カーペットの下にきれいに配線していきます(図1)。ワンルームのスモールオフィスなら、壁ぎわに机やラックを配置し、その後ろにケーブルを這わせてもよいでしょう。いずれにしても、少しレイアウトを変更するだけでケーブルの配線がすべてやり直しとなっては大変ですから、ゆとりを持たせた配線をしてください。

最近では簡単な無線LANの設備も、手の届く範囲で登場してきました(図2)。場合によっては、こういう装置の利用を検討するという方法もあります。

電源も良く考えて

意外に見落としがちなのが、電源です。たくさんのOA機器を導入する場合、十分な電源容量を確保しておくことはもちろん、それぞれの機械のところにきちんとコンセントが用意されていなければなりません。壁ぎわの机は比較的柔軟な対応ができますが、部屋の真ん中に「島」をつくって机を配置するとき、コンピュータの電源のことが抜け落ちているケースがあります。

この新オフィスの場合、電源容量は問題なかったものの、コンセントが床の埋め込み式だったので、邪魔にならないように接続するのに苦労しました。邪魔なだけならまだしも、うっかり蹴飛ばしてプラグが抜けてしまっては一大事です。室内のレイアウトは、こういう電源部分も良く考慮して決める必要があります(図3)。

クライアントの搬入

そうこうしているうちに、マッキントッシュを納入する業者さんが到着しました。作業中のEthernetケーブルが這い回る横で、マッキントッシュやプリンタの梱包を解き、内容をチェックしていきます。今回購入したのはPowerMac G3 266が1台と、PowerMac 5500が2台です。G3はメモリを増設するので、モニタなどを接続する前に本体を開いてスロットに32MBのRAMを差し込みます(図4)。5500の方は、ネットワークに接続するためのEthernetアダプタを追加します。これらの準備ができたら、モニタやキーボードをつなぎ、電源を差し込んでセットアップ完了です。

どうやらネットワーク工事が終わったようなので、それぞれのケーブルの一方をマッキントッシュのEthernetポートに、もう一方をハブにつなぎます。電源スイッチを入れて、マックを起動してみましょう。ネットワークは正しく働いてくれるでしょうか。

ネットワークのテスト

LANがうまくつながっているかどうか確かめるために、ファイル共有とWeb共有を動かしてみることにします。

まず、それぞれのコンピュータで「共有設定」コントロールパネルを開き、所有者とコンピュータの名前を設定し、「開始」ボタンをクリックしてファイル共有を有効にします(図5)。サーバーとするマシンではさらに「利用者&グループ」コントロールパネルを開いて、他のマシンを利用者として登録します(図6)。ハードディスクにフォルダを作成し、ファインダの「ファイル/共有...」メニューでフォルダを公開する手続きをとりましょう(図7)。

別のマシンで「セレクタ」を開き、「AppleShare」をクリック(図8)。サーバーのリストに、公開したマックの名前が表示されるでしょうか? これがうまくいけば、ネットワークは正しく接続され、AppleTalkのデータが流れていることになります。もし名前が見えないようなら、ケーブルの接続や、AppleTalkコントロールパネルをチェックして下さい。Ethernetを使っているのにAppleTalkの経由先が「プリンタポート」となっていると、ネットワークを利用することができません。

TCP/IPの働きをチェック

同様に「Web共有」でTCP/IPの働きも確認しておくことにします。まず、それぞれのコンピュータで「TCP/IP」コントロールパネルを開き、IPアドレスを設定します(図9)。とりあえず「手入力」方式を選び、アドレスを192.168.0.10〜192.168.0.12の範囲で設定。次にファイルサーバーとして公開したマシンで「Web共有」コントロールパネルを開き、「開始」をクリックします(図10)。

別のマシンでWebブラウザを起動し、アドレス欄に「http://192.168.0.10/」と入力してください。ホームページの画面が表示されれば、こちらも成功です(図11)。OCNが開通すれば、インターネットもLAN経由で使えるようになります。

現実はすぐに動き始める

さて、この時点ではUNIXサーバーはまだ届きません。まずUNIX関係の作業を依頼しているところに本体を納品し、そちらでインストールとテストを済ませてからオフィスに運びこむことになっているのです。OCNの開通待ちもあり、サーバーが活躍するのはもう少し先になりそうです。

今回のシステムは(1)コミュニケーション、(2)情報共有、(3)情報収集、(4)営業支援という4つの目的を立てていたのですが、そんなわけで最初に稼働したのは4番目の「営業支援」ツールとして用意したプレゼンテーションソフトでした。なにしろ営業活動は相手のある話です。こちらのシステム構築の都合など関係なく、打合せのスケジュールはどんどん決まっていきます。早速入った重要な会議のため、担当者はマックの到着を待ちかまえており、プリンタが接続されるやいなや、自宅で考えてきたアウトラインをプレゼンテーションの形にまとめあげ、レーザープリンタで出力して得意先に飛んでいったのでした。

システム設計者としては全ての目標を満たした形で美しくスタートしたいところですが、現実はそんなことを待っていてはくれません。システムはまず実用性が求められますから、臨機応変な対応が大切です。ただし、応急処置ばかり繰り返して、利用のルールも定められず、設計の基本理念がどこかに行ってしまったという話は非常に多いので、注意しましょう。

やはり外の世界とも繋ぎたい

最初の計画では、OCNエコノミーの手続きが完了するまでは、OCNダイヤルアップを契約し、ルーターをダイヤルアップルーターとして使ってインターネットにアクセスすることになっていました。しかし、現実はなかなか予定通りに進みません。

オフィスの電話は2回線。一つはFAX専用で、もう一つは複数のビジネス電話がつながれたISDNです。ダイヤルアップルーターを接続するにはISDN回線が必要なのですが、実は、ビジネス電話を扱う装置がこの回線をがっちり押さえていて、ルーターを繋ぐことなどできそうにないということが分かりました。

仕方がないので、LAN型接続はOCNエコノミーが来るまで諦めることにし、PowerMac 5500の内蔵モデムを使ったダイヤルアップを試みることにします。ビジネス電話はモデムを繋ぐことが難しいので、FAX用の回線を分岐して、近くの5500まで電話線を引っ張ってきます。これを本体後ろのGeoPortに接続すれば、そのマッキントッシュからはダイヤルアップが可能になるわけです。

新聞検索が必要になったこともあって、プロバイダもOCNダイヤルアップではなく、NIFTY-Serveを申し込むことにしました(図12)。附属のNIFTY Managerを使ってオンラインサインアップすれば、すぐに使えるようになるはず……なのですが、どうしてもNIFTYに接続できません。30分ほど悪戦苦闘したあげく、もう一台の5500でやり直してみたら、一発でできてしまいました。どうやら内蔵モデムが不良だったようです。

現実をスマートにこなす現場監督

コンピュータを想定していない電源、LAN接続できない電話回線、納品時の製品不良……やはり、現実の作業はなかなか理屈通りに行きません。こうした物理的なトラブルの可能性を考えると、オフィスへの新システムの導入には、業者さんの協力が不可欠だといっても良いでしょう。

さらに、導入当日になって、利用者から設計時と異なる要望が出てくることもあり得ます。こんな時、状況に柔軟に対応しつつも、本来の目標を見失わないようなしたたかさが、システム設計者の「現場監督」としては大切なんですね。

(MacFan 1998-06-01号)