花火 第6回演奏会プログラムノート
モーツァルト:セレナードニ長調 K.239 「セレナータ・ノットゥルナ」
セレナーデ(小夜曲)とはもとは、夕べに窓の下から恋人に捧げる声楽曲を意味しました。のちにここから発展し、夕方や戸外で演奏する、そして下から上の人へ捧げるなどの意味を持つ各種の曲を指すようになりました。従って、特定の形式の曲を指すわけではなく、むしろ、どのような状況で演奏されるかによって、セレナーデと名付けられました。ノットルノ・ナハトムジーク・カッサシオーンという名称も、ほぼ同じ意味で用いられています。
声楽を含まず楽器のみで演奏されるセレナーデは、17世紀の終わり頃から18世紀にかけてオーストリアを中心とした地域でさかんに作られました。純器楽曲としてのセレナーデは、典型的には、冒頭楽章・緩徐楽章・終楽章に相当する交響曲的な楽章、ソリストの活躍する協奏曲的楽章、それに複数のメヌエット楽章も加わり、多いときには10近くまでになる楽章から構成されます。そしてその前後に入退場のための行進曲も配置されました。楽士は行進曲を演奏しながら屋外の演奏場所へと入場するため、低弦には台車に吊ったコントラバスのみ用い、歩行しながの演奏が困難なチェロとティンパニを含まない編成が珍しくありません。規模は、楽器編成の上でも演奏時間の上でも、器楽曲としては当時最大級でした。
モーツァルトは1773年以来、毎年セレナーデを書いています。「セレナータ・ノットゥルナ」は1776年1月、20歳の時の作品。上述したセレナーデの典型的な特徴を踏みこえ、多くの創意が盛り込まれています。“Serenata Notturna”の表題は、父レオポルドが自筆譜に記入したとされています。ノットゥルナと名付けられた理由は定かでありませんが、モーツァルトの作品ではしばしば、複数のオーケストラグループを用いた作品をノットゥルナと称しています。確かにこの作品は、楽器編成が2群に分かれ、第1オーケストラ(コンチェルティーノ:独奏グループ)と第2オーケストラ(リピエーノ)が交互に演奏するバロックのコンチェルト・グロッソの書法。その第2オーケストラは管楽器が省かれティンパニだけという稀な用例。また従来のセレナーデと違って、楽章数が少なく、行進曲を組み込んでしまっている点も異例です。どのような場所での演奏を目的として作曲されたかについても定説はありませんが、ティンパニを含むこと、冬場に作曲されたことなどから、室内用に作曲されたものだろうと考えられています。
- 第1楽章
- マエストーソ 演奏会の幕開けにふさわしい行進曲。伴奏弦のピチカートとティンパニの連打する効果が素晴らしい。
- 第2楽章
- メヌエット ロンバルディアのリズムと呼ばれる逆付点リズムによる堂々とした作り。 独奏楽器だけの静かで伸びやかなトリオが優美。
- 第3楽章
- ロンド−アレグレット 民謡風の主題によるロンド。中間にアダージョと、ウィーンの行進曲旋律といわれる明快な調べのあと、ロンド主題に戻り明るく曲を結ぶ。