HTMLメールはやめておこう

 HTMLメールとは、WWWで使われるマークアップ言語のHTMLを、「インターネットで文書を整形する標準言語」と曲解して、タグ付けの仕組みだけをメールに取り込んだものだ。本来HTMLは文書の構造(見出しや段落などの構成要素)を記述するもので、WWWでは文書のレイアウトなどはスタイルシートを使う方向に整理されつつある。ところが、この流れとは遠く離れたところで、HTMLの文字スタイルの設定方法や画像指定方法だけを、新機能を売り物にしたい電子メールソフトがゆがんだ形で移植してきた(*注1)。

 HTMLメールが困りものだと言われるのは、対応していないメールソフトで受信した場合、マークアップ記号が邪魔して読みにくいものになったり、余計な添付書類がついてきて煩わしいからだ。それだけではなく、対応するメールソフトでも、HTMLを解釈したりブラウザを起動するために処理に時間がかかり、大量のメールをテンポよく読むことができなくなってしまう。特にメールのヘビーユーザーには、HTMLメールは非常に嫌われている(*注2)。率直に言って、HTMLメールはビジネスにおいては邪魔もの以外の何物でもない。

 さらに問題なのは、いくつかのメジャーなメールソフトがHTMLメールを標準書式としていることだ。このため、初心者が自分でそれと気付かずにHTMLメールを送ってしまい、口うるさいユーザーから厳しく注意されておろおろしてしまう例が後を絶たない。注意してもらえるのは、まだましな方とも言える。失礼な奴と思われて無視されてしまうと、せっかくのビジネスメールが逆効果になってしまう。そして、送っている方はその問題に気がつかないので、事態は深刻だ。

 ビジネスレターの書き方を身につけるのが社会人の常識であるように、電子メールの送り方もビジネスの最低の常識として必要になりつつある。その第一歩が、メールの設定からHTMLメールを解除するというのでは、何とも情けない話ではあるのだが。

(注1)

電子メールでの書式表現方法は、RFC 1896で提案されているリッチテキスト(text/enrichedタイプ)がある。これはHTMLと同様に<>で囲まれたタグによって本文をマークアップするが、採用されている命令(要素)がHTMLとは異なる。また同じ意味のタグでも、太字体はHTMLでは<b>だがリッチテキストでは<bold>という具合に違いがある。もっとも、このリッチテキストはそれほど普及しているとは言えない。メールソフトで「リッチテキスト」となっていても、実際はほとんどが「HTML」スタイルのマークアップのことを指している。

(注2)

HTMLメールの多くは、マークアップした本文と合わせて、同じ内容を単純なテキストで表したものも送る機能を持っている。受信ソフトによって、このテキストの部分だけを表示したり、マークアップ部分を添付書類扱いにして必要に応じてブラウザで開けるようにしたり、直接HTMLを解釈して書式付きで表示したりと対応が異なる。

(補注)

HTMLメールを奨めないのは、ビジネス用途や相手のことを良く知らない場合。受取人に歓迎されなかったり、迷惑をかける可能性の高いメールは避けるほうが賢明だ。

親しい間柄で相手もHTMLメールを歓迎する場合は、この限りではない。私も親に孫の写真を送るときは、敢えてHTMLメールを用いている。親の接続環境はCATVネットで、使っているソフトもHTMLメールに対応しており、添付書類を開いてもらうよりも簡単で分かりやすいからだ。

ただしこのときも、うっかりウイルスを送ったりすることの無いよう、安全面には十分配慮する必要がある。

なおHTMLメールには、ウイルスなどの問題だけでなく、「ウェブビーコン」などと呼ばれるプライバシーの問題(外部画像を自動的に開かせることで、メールの受信確認が可能になるという、マーケティングやSPAMに利用される手法)や、様々な手段でフィッシング詐欺に利用されるなど、問題点は数多く指摘されている。2003〜4年になって、Outlook ExpressにもHTMLメールをテキストメールに変換して表示するオプション項目が追加されたり、開封時に画像などを自動的にダウンロードしないような設定が施された。たとえば、大和総研のコラム「フィッシング詐欺が再喚起するHTMLメールの危険性」などを参照。

『プロフェッショナル電子メール』第2章より