ちょっとしたメモ

WWW2005パネル・ディスカッション

幕張で開催されているWWW2005に、Panel 01 「Can semantic web be made to flourish?」のパネリストとして出席してきた。《セマンティック・ウェブ》が花開くためには何が必要なのかというテーマについて4名で討論するというもの。程度の差はあれ、ほぼ皆の意見が一致したのは、どうやったら利用者にモチベーションを与えられるかが重要という点だ。

(写真]中央のスクリーンにスライドを投影し、向かって左にパネリストが並んだ。) パネルは、W3C SWBPのco-chairであるDave Woodがモデレータとなり、導入に続いて4つの質問をパネラーに投げかけるという形で進められた。パネリストはほかにメリーランド大のJim Hendler教授、@semanticsのZavisa Bjelogrlic (Zac)、Tucana TechnologiesのBernadette Hylandの3名。以下、概要を簡単にメモしておこう。

提示された4つの問いは次のとおり:

  1. How would you characterize today's Semantic Web ?
  2. What does the Semantic Web require to become mainstream ?
  3. How will the Semantic Web become mainstream ?
  4. Which industries have the most to gain from the Semantic Web ?

これに対して、研究者、SW関連の起業家、ソフトウェア開発会社といった立場からそれぞれが答えていくわけだ。私が述べた意見は概ね次のようなもの:

  • 《セマンティック・ウェブ》という言葉は人によって捉え方がずいぶん違い、いろんな誤解や水掛け論の元にもなっている。単純に「セマンティック・ウェブは実現するか」という問いかけはあまり意味がない。

    より具体的に見れば、メタデータを用いた高度な検索は、(必ずしもRDFということに限定しなければ)フォークソノミーが注目されているように、比較的進んでいる。一方、語彙の共有やデータの再利用という点は、まだあまりうまく行っていない(それぞれのサービスが自己完結している)。知的エージェントといった領域になると、ごく初期の段階だろう。

  • セマンティック・ウェブ技術を利用してみようというモチベーションを持ってもらうことが必要。そのためには、easy, fun and useful でなければならない。

    easyというのは、利用者にとってだけでなく、開発者にとっても同様。RDF/XMLを用いることが重要なのではなく、何らかの形でセマンティック・ウェブの技術を、導入しやすい方法で組み込んで利点を生かせばよい。また、楽しく有益ならば人々はその技術を使う。利用者にメタデータを与えてもらうのは無理と思われていたのが、ひとたび面白さ、便利さを見出したら、さまざまなソーシャルサービスで利用者は積極的にメタデータ(タグ)を付与している。

  • メタデータ自体は、flickrやdel.icio.usなどさまざまなサービスにすでにたくさん存在している。必要なのは、これらをつないで、データを共有したり再利用することで新しい価値を発見できるようなアプリケーション、サービスではないか。ひとたびこうして「セマンティック・ウェブ」の面白さ、便利さが伝われば、人々は自らの情報にもメタデータを与えようと考えるかも知れない。ちょうど90年代にウェブ・サーバー/ブラウザが普及して、人々が情報をHTMLの形でどんどん発信するようになったように。

質問とはきちんと対応していないが、途中で参加者からの質疑が入ってそれに答える形で進んだり、4番目の質問は時間が無くて曖昧に端折ったりしたので、およそこんなところだ。

イントロは、ビジネス的な視点でセマンティック・ウェブどうよ、という感じだったのだが、

  • Hendler教授からは「教育、アウトリーチによってもっと利用者からデータが出てくることが重要」という発言があり、
  • Zacは、利用者のモチベーションを得るために「何でもありではなくて、よりターゲットを明確にしたアプリケーションが必要」という視点を述べ、
  • Bernadetteは、さまざまなIT企業の取り組みを例示しながら、セマンティック・ウェブへの取り組みが実際に進みつつあることをふまえた考察を披露した。

Zacの良くできたプレゼンテーションも披露され、メンバーの構成を反映して、多角的な検討はできていたように思う。(追記:彼らの意見はもちろん上記のものだけではなくて、もっと幅広い見地を含んでいたが、ここでは特徴的なもののみ紹介している)

さて、このパネルに出席して改めて感じたのは、“既存のウェブ(技術)で別にいいじゃない”という利用者(開発者)にどうやって「セマンティック・ウェブ」に目を向けてもらうかが重要ということだ。新しい技術情報をフォローしておくことも大切だが、「セマンティック・ウェブはなかなか楽しい」「メタデータはけっこう便利」「RDFって案外簡単」ということをどうやって伝えていくか。