ディジタルって何だ?

コンピュータの本や雑誌を読んでいると「ディジタル」という言葉がしばしば登場します。いえ、コンピュータには限りません。私たちのまわりには、時計でもレコードでもディジタルが溢れていて、ごく当たり前のようにこの言葉を使っています。

では、ディジタルとはいったい何なのでしょうか? いろんなものを高性能にしてくれそうな、この秘密のおまじないは何ものなのでしょう?

もともとディジタル(digital)とは、指を表すラテン語のdigitusから生まれたことばです。これからも分かるように、一つひとつの要素を指さし数えられるような、区切りのある状態をディジタルと呼びます。

これに対応するのがアナログで、先祖は比例していることを表すギリシャ語analogosにさかのぼります。つまり、アナログとはもとの形を変えずに、そのまま大きくしたり小さくしたりして移し替えた状態を言います。

例えば楽器の音の波形のような複雑な形がある場合、それをできるだけ相似形に写し取ろうというのがアナログ、もとの形を数多くの部分に分解し、それぞれの部分を数量化して扱いやすく(数えやすく)するのがディジタルということになります。

では、情報をディジタルで扱うとどのようなメリットがあるのでしょうか。

(digital vs analog) ディジタルとは、曖昧な中間部分を切り捨てて、はっきりした数字に置き換えていくことです。そのため、これを扱う装置は微妙なデータを苦労して判別する必要がなく、単純な判断に専念できます。

オーディオを例に考えてみましょう。LPのようなアナログの録音の場合は音の波形をそのままレコードの溝の形に反映させています。ですから、少しの狂いも音のひずみになったり、埃がそのまま情報の一部として雑音になったりするのです。

これがディジタルのCDになると、ディスク上の凹凸でデータが有るか無いかを判断します。微妙な違いではなく、凹か凸かを考えればよいのですから、ディスクに記録されたデータをほとんど完全に読みとることが可能です。図のように、アナログの場合波の形が乱れると情報が全く異なってしまいますが、ディジタルの場合は少しぐらい傷があっても大きく分けてどちら(凹凸)かが判断できればよいのですから、ノイズに強く、エラーが起きにくいということが分かるでしょう。

現在のコンピュータは2進数を用いたディジタル計算機です。1と0というのは、論理的には真と偽、YESとNOを表すことができる、情報の最も基本的な表現形態です。またこれは電気のONとOFF、磁石のNとSにも対応させることができます。つまり、論理的な判断を電気的、磁気的な属性に置き換えて処理することが可能になるわけです。しかも、考える必要があるのは1か0かの2つの場合だけ。単純な判断ですから、高速で正確な装置を作ることができます。1か0かの操作を気が遠くなるほど繰り返すことで、高度な計算を行っているのがコンピュータなのです。

もちろん、1と0だけで複雑な情報を表現するには、非常に大量のデータを高速に処理しなければなりません。ディジタル回路を高度に集積するICの発明によって、これが可能になりました。実際、PowerPCクラスのチップは、ほんの数センチ角の面積に300万個前後のトランジスタが詰め込まれているのです。

この単純さは、情報の複製を作るときにも大きな威力を発揮します。アナログの録音は、ダビングを繰り返すたびに音質の劣化は避けられません。これに対し、CDなどのディジタル音源は理論的には音質の劣化なしに完全にコピーすることができます。単純な1か0かを写すだけなので、間違いの入り込む可能性が極めて小さいのです。

また、情報が数値化されていると、それに対してある計算を施してデータを変換するということが容易になります。グラフィックソフトによる多彩な画像処理は、画像情報がディジタル化されてはじめて可能になったものです。

ディジタルという考え方は、コンピュータで情報を扱うための根底を支えているといって良いでしょう。文字も音も画像も、全ての情報をディジタル情報に置き換え、一括して計算処理できるようになったからこそ、コンピュータが私たちにとって役立つツールになったのです。

(Beginners' Mac 1996/4号)