花火 第5回演奏会プログラムノート

G.ホルスト:セント・ポール作品29

文:大岩 淳子(Vn)

スウェーデン系イギリス人のグスタフ・ホルスト(1874-1934)は、幼い頃より音楽に囲まれた環境で育ちました。若い頃には神秘主義やインド哲学などの東洋思想に傾倒していた時期もあり、初期の作品にはその傾向を色濃く残しています。その一方で王立音楽大学時代に出会ったヴォーン・ウィリアムズとともにイングランド各地の民謡を採譜し、またバッハやパーセルなどの古楽復興に携わることにより、イギリス民謡や古風な様式を用いた作品も数多く残しています。

1905年からロンドンのセント・ポール女学校の音楽教師となったホルストは、以後教鞭をとる傍ら作曲を続けました。後に代表作「惑星」など数々の作品の創作活動を行うことになる“ホルスト専用音楽室”が完成した1913年、女学校の弦楽オーケストラのために作られた曲がこの「セント・ポール組曲」です。

ホルスト中期作品にあたるこの曲は、イギリス民謡をふんだんにとりこみながらも、時に非西洋的な要素を織り込むなど、色彩豊かで親しみやすい曲です。特に終曲では、イギリス民謡ダーガソンで踊るように変奏を繰り返していくうちに、誰もが知っているあの曲(イギリス民謡)が聞こえてきます。どうぞお楽しみに。

I.Jig
Jig とは16世紀のイギリスで流行した舞曲です。8分の6拍子と8分の9 拍子の間を頻繁に入れ変わる非常に陽気でエネルギッシュな曲です。
II.Ostinato
Ostinato とは一定の音型をあるパートが絶えず反復することで、この曲で はセカンド・ヴァイオリンによって繰り返されます。この爽やかな伴奏の 上で、ヴァイオリン、ヴィオラによって素朴で懐かしい旋律が歌われます。
III.Intermezzo
ピチカートの伴奏にのって、ソロ・ヴァイオリンによる東洋的な旋律で始 まり、ソロ・ヴィオラとデュエットとなります。中間部では一転して快活 な舞曲をはさみながら、また元の旋律に戻り、最後は弦楽四重奏となって 消えていきます。
IV.Finale (The Dargason)
Dargason もまた16 世紀にイギリスで流行した舞曲です。途中からもう一 つのイギリス民謡と重なりあいながらフィナーレに向かいます。なお、こ の曲はホルスト作品である「吹奏楽のための組曲第2番」を再アレンジし たものです。