花火 第6回演奏会プログラムノート
プロコフイエフ:交響曲 第1番「古典」
同時代に活躍し、常に並び称され、また比較されるもう一人の作曲家ショスタコーヴィッチの作品を、第1回から第3回まで連続して演奏会で取り上げているのに対し、今回がアンサンブル花火にとってプロコフィエフ初挑戦となります。
「古典交響曲」は、プロコフィエフの作品の中でも人気の高い曲です。管弦楽はトロンボーンなしの2管編成、演奏時間も15分ほどと、規模だけ考えればまさに我々のような小編成オーケストラのためにあるような曲です…と、そう考えて今回の曲目として推薦したのは、実は私なのですが、今は曲あまりの難しさに、ちょっぴり反省しています。
第一楽章:Allegro
「古典的に」きちんとまとまった、ソナタ形式の楽章です。主題提示部では、ニ長調の第1主題に対して第2主題がイ長調で提示されるなど、調性構造も古典的です。ただし、再現部の第1主題はハ長調でかかれている点や、通常のソナタ形式では必ず存在する提示部の繰り返しが省略されている点など、「古典」の常道からはちょっと離れている部分もあります。
この第1主題は分散和音による上昇音型、一方第2主題はヴァイオリンが軽快に奏でるスタッカートの音型であり、性格的にはまったく正反対なものです。しかし、共通している点もあります。それは「音域が非常に広範囲である」ということで、よく指摘されるプロコフィエフの特徴の一つです。特に第2主題については、その跳躍の幅広さのために、練習中ヴァイオリン奏者たちは大苦戦していました(今日は完璧に演奏できるものと期待しておりますが)。
また、この第2主題の部分も特にそうなのですが、ボーイングの指定が普通ではありません。「わざと弾きにくい弓順をつけているのではないか」と思うほど、意地の悪い指定がされています。聞いている分には明快な楽章なのですが、演奏者にとっては落とし穴だらけの楽章です。
第二楽章:Larghetto
名作「交響曲第5番」の第三楽章とも共通する、澄み切った夜空に輝く満天の星のような、透明感に満ちた楽章です。特に第一ヴァイオリンが大変な高音域で演奏する主題は、プロコフィエフが書いた音楽の中で、もっとも美しい部分だと思います。
第三楽章:Gavotta, Non troppo allegro
交響曲の第三楽章が「スケルッツオ」でも「メヌエット」でもなく、それよりも古風な「ガボット」になっています。プロコフィエフらしいひねり方だと思います。また、表題は古風な「ガボット」ですが、中身は近代的です。どこに向かうかわからない転調を重ね、最後唐突かる強引に主調(ニ長調)に解決する和音の進行は、どこか人工的な印象を受けます。4つの楽章の中でこれが一番プロコフィエフらしい音楽だと思います。
余談ですが、このガボット、バレー音楽の大傑作「ロミオとジュリエット」にそっくりそのまま引用されています。作曲者もお気に入りの楽章ということでしょうか。
第四楽章:Finale, Molto vivace
大変な難曲です。上から下まで、どのパートもとんでもないことをやらされています。しかも第一楽章では省略されている主部の繰り返しが、この楽章には存在します(つまり難しい部分も繰り返して演奏しなくてはいけないということです)。めまぐるしい転調を重ねるところは、第三楽章と同様ですが、ガボットの人工的なギクシャクとした印象に対して、この楽章からは自然な印象を受けます。目の前の風景が次々と変わっていく、色彩が絶え間なく変化していく、そんな感じです。颯爽と、疾風のように駆け抜けていく、爽やかな終楽章です(というように演奏できれば良いのですが…)。