RDFの特許に関するメモ

2002年の年初に突然話題になった「RDFの技術が既存特許に抵触するか」という問題について、いくつかの情報を拾って記します。個人的な理解のためのメモとして訳した断片のつぎはぎです。

ことの経緯

2001年末に、カナダのUFIL Unified Data Technologies Ltd. (UDTL)が、法律事務所の代理人を通じて、RDFRSSが同社の保有する特許に触れる可能性があるという文書を関係者に送付しました。これが、W3CのRDF Interest Group(RDF-IG)のメーリングリストで取り上げられ、さらに2002年1月3日のCNetでレポートされました。

UDTL社の文書は丁寧な内容で、同社の技術によるソフトウェアを共同開発するか、技術のライセンスを受けることができるとし、

If you have an interest in a business relationship with UDTL that involves either development of software products that implement the patented technology, or a license under the patents to practice the technology, please contact me.

と、2月1日までに代理人に回答することを求めています。RDF-IGでは、少し時間をかけて検討しようということで、1月6日現在で具体的なリアクションはまだ公開されていません。

なお、UDTL社が特許権行使のために契約を結んでいるPEARL (Patent Enforcement and Royalties Ltd.)のニュースリリースによれば、UDTL社はRDF-MSの勧告が出された1999年当時から、RDFが同社の特許がカバーする技術に依存すると主張しているようです。

UDTL社の特許について

UDTL社の主張する特許は、U.S. Patent No. 5,684,985で、Method and Apparatus Utilizing Bond Identifiers Executed upon Accessing of an Endo-Dynamic Information Node (EDIN)(内的動的情報ノードへのアクセス時に実行される結合識別子を利用する手法と装置)と題されています。また、別の特許U.S. Patent No. 6,092,077 Binary-Oriented Set SequencingもRDF、RSSに関係する可能性があるとしています。

米5,684,985号特許は、1994年12月15日付で出願され、1997年11月4日付で特許として公開されています。いくつかの部分をかいつまんで試訳してみます。以下の各セクションは連続したものではありません。

特許申請点(一部)

  1. メモリとデータ保存装置を備えるコンピュータで動的にデータを組織化し処理する手法で、なおかつ次のステップから成る手法:

    (a) コンピュータのメモリ内で、一つもしくはそれ以上の内的動的集合(EDS: Endo-Dynamic Sets)として情報の構造と関係を生成する。EDSは、一つもしくはそれ以上の内的動的情報ノード(EDINs: Endo-Dynamic Information Nodes)のリストで構成され、EDINsはそれぞれデータのアトム構成要素を表す。さらに、EDINsはそれぞれ主語識別子(a subject identifier)、属性識別子(an attribute identifier)および結合識別子(a bond identifier)から成り、結合識別子が主語と属性の識別子の関係を定義する;

    (b) EDINの各結合識別子とコンピュータのメモリに格納されたデータの組織構造を関連づける;そして

    (c) EDINsを通じてコンピュータのメモリ内のデータの組織構造をトラバースする

  2. 申請1の手法として、各々のEDINsがひとつのEDISを構成する

  3. メモリとデータ保存装置を備えるコンピュータで動的にデータを組織化し処理する手法で、なおかつ次のステップから成る手法:

    (a) (1-aと同文)

    (b) EDINの各結合識別子とコンピュータのメモリに格納された実行可能コードの本体を関連づける;そして

    (c) EDINがコンピュータ内でアクセスされたときに結合識別子に対する必要な動作としてその実行可能コードをコンピュータで実行する

  4. 申請3の手法として、一つもしくはそれ以上のEDINsがひとつの内的動的コマンドライン(EDCL: Endo-Dynamic Command Line)を構成する

  5. 申請4の手法として、〔複数の〕EDCLがひとつのプログラムを構成する

以下、同様に申請点の実現手法の定義が申請41まで続きます。最後の申請42と43は、これらの手法を実現する装置に関する申請になっています。

発明の背景

1.発明の分野

この発明は、データの組織、格納、読み出し及び処理に関して、位置的、構造的、もしくは連想的な制約を取り除くための手法と装置を公開する。

2.関連技術の説明

現在、情報の組織化は様々な手法によって実現されており、それらはしばしば、異なる一般的な情報のために、異なった別の目的で用いられている。情報が特定の事実、図画、名前、関連性から構成されるとき、現在のアプローチでは、それぞれ特定のアプリケーションが、レコードを定義し利用するための独自の方法を用意しなければならない。情報が何であるかを知りうる唯一のプロセスは、その種類の情報を生成し維持するひとつのアプリケーションのみである。より低位のOSレベルでは、データベースもしくは他のアプリケーションに関して言えば、データはどんなタイプであっても良い。ファイルとディレクトリが情報を組織化するために用いられ、そこにおいて情報の物理的および論理的組織は一にして同じである。

適切で必要な情報を見つけるためには、プロセスはまずファイルとディレクトリを処理しなければならない。プロセスは、物理的なディレクトリとファイル階層をその論理的情報組織に組み込み、反映しなければならない。WINDOWS、DESQVIEWのような現在のシェルの多くは、OSとアプリケーションのギャップを埋め、プロセスがOSを直接操作しなくて良いような方法を提供する。不安定であることは別にして、このようなシェルは依然として包含を行うに止まっている(still constricted by containment)。すなわち、情報の論理的及び物理的組織は、あるレベルにおいて同一となってしまう。そのレベルにおいて、論理的な拡張、再組織化、およびさらなる関連づけは、包含(containment)では不可能となる。

概要

情報は一般にアトム(単体)もしくは複合体として表現できる。アトム情報は基礎的なユニットであり、複合情報はある目的のための、アトムおよび他の複合体の任意の組み合わせを含む。この発明を、Binary Oriented Set Sequencing (BOSS)という用語で表す。これは、任意のデータにおける最小共通情報構造はバイナリであるというコンセプトに基づいている。データ組織をバイナリとして見るこの視点により、任意の複雑さとタイプを持つ任意の情報を表現し、表示し、格納し、処理できる情報マネジメント環境が実現する。

この発明はさらに、情報アトムは静的でも動的でもよいが、それらのアトムの複合情報(関連づけ、グループ化、集合など)は常に動的である、という情報組織の視点を採用する。特に指示しない限り、複合情報体は動的に決定され生成される。この決定(determination)は、ある定義された条件を処理することに基づく。そこにおいては、条件を限定する全てのアトムはその複合体に含まれる。この動的な決定を行うことにより、2つ以上の複合体に共通のアトムおよび/もしくは複合体が変更されたときも、複合体を「アップデート」する必要がなくなる。さらに、それぞれの情報複合体は、その複合体の既存の定義に基づき、動的に生成されることも可能となる。

この発明は、いくつかの点で従来の情報格納および処理環境と異なっている。この違いは以下に列挙するものであり、続くサブセクションで説明される〔サブセクションはUEIのみ試訳〕:

  • The InfoFrame
  • Binary Association
  • Universal Entity Identification
  • Dimensia
  • Associative Processing

これらの要素の結果として、環境は適切なものとなり、全てのデータの論理組織の要素はノードとして格納される。さらに、プロセスは同じノードを異なる方法で見ることができるようになる。より正確には、BOSSは同一の情報アトムの基本集合に対し任意の論理構造を与えることができる。これは、データを処理するプロセスや関連するデータをプロセスがどう見ているかにかかわらず、データは同じ方法で維持されるということを意味する。静的な単一目的のコントロール構造とレコードを実装して格納する代わりに、プロセスはデータの特定のビューを定める一連の定義式を格納するだけでよい。これにより、あらゆる異なる種類のデータのための汎用的なノードを蓄積し、動的に生成される異なるビューの基礎として利用可能な環境が提供できる。そこでは、あらゆる異なるプロセスが、集合的なデータプールの断片を、異なる方法で利用することができる。

UNIVERSAL ENTITY IDENTIFICATION

(BOSSの要素のうち、URIとよく似た概念であるUEIに関する説明部分を試訳します)

(…)BOSSにおいては、各集合および各要素はUniversal Entity Identifier (UEI)によって一意に識別できる。これは、あらゆる条件下において、いかなるトピック/オブジェクトも一意に識別されるということである。もしこの方法ではなく包含的なアプローチ(containment-based approach)がとられるならば、EDINにおける主語と属性が曖昧になるため、BOSSは不完全に解釈される無用なものとなりかねない。この曖昧さが生じるのは、もしあるアイテム(EDINの主語あるいは属性)が一意に識別できなければ、他のアイテムに一意にあるいは正確に関連づけることができないためだ。

(以下、原特許文書では、EDIN, Bond, EDS, EDIS, InfoFrame, InfoBaseといった概念や、集合定義式などの数学的な扱い、ソフトのライブラリなどについて記述するセクションが続きます)

Disclaimer

この文書は、RDFを巡る知的所有権関連の動きを当サイト作者自身が理解するために、いくつかの情報を抄訳した私的なメモを、読者の参考に公開するものです。翻訳箇所は、原文中から作者が必要と思う部分を任意に選択しており、原文の全体像を正確に反映することを目的とはしていません。訳文は極めてラフであり、誤りが含まれている可能性があります。また、この件に関与するいかなる組織、個人その他の意見、利益を代弁するものでもありません。