またまた超廉価盤の面白いハイドン。今度は5人の奏者が6種類のフォルテピアノを弾き分けて収録した52曲のピアノソナタだ。奏者はバート・ファン・オールト(Bart van Oort)、ウルスラ・デュチュラー(Ursula Dütschler)、スタンレー・ホッホランド(Stanley Hoogland)、小島芳子、福田理子。楽器は1785頃ウイーン作者不詳、1794年作のブロードウッド、1798年作のヨゼフ・カークマン、ヨハン・シャンツをモデルとしたウォルフの1983作、アントン・ワルターをモデルとしたポール・マクナルティの1996作、アントン・ワルターをモデルとしたクリス・メーネの2000作。2000年9月に一気に録音されている。(オールトとデュチュラーはベートーベンのソナタの録音にも参加していた奏者。ホッホランドとオールト、小島、福田は師弟)

ハイドンの鍵盤ソナタといえば、まずどれが本人の作かという点でいろんな説があるから、何を選んで「全集」とするかというのはそれほど単純ではない。さすがに録音が新しいだけあって、各種の研究に目を通したようだが、この全集ではピーター・ブラウンの著作[1]を基本に、ラースロー・ショムファイ[2]とベルナルド・ハリソン[3]の研究を取り入れたとある(CD2のライナーノート)。XVI/15、XVI/17が除外され、XVI/G1とXVII/D1が加えられ、結果としてホーボーケンの番号と同じ52曲が収録されることになった(ブーフビンダーの全集はクリスタ・ランドンによるウィーン原典版で62曲)。

楽器に関しても、初期はまだチェンバロやクラヴィコードがメインの時代で、後期になってからフォルテピアノが広まってきたというタイミングの問題もあるので、何をどう弾くかというのは多様な考え方があり得る。ブーフビンダーのように一人でピアニスティックに全曲弾くのも一貫性があって聴き応えがあるが、このように複数の奏者と楽器の組み合わせというのも興味深いものだ。例えば、福田が1785の楽器を使って弾くXVI/21なんて、まるでチェンバロの音楽を聴いているみたい。

ハイドンのピアノソナタは、適当に流していてもそれなりに耳に心地よく響いてくるし、背景を調べながらじっくり聴けば発見に満ちている。これは当分楽しめそうだ。それにしても、この10枚組が3000円程度とは…

  1. A. Peter Brown, Joseph Haydn's Keyboard Music: Sources and Style, 1986, Indiana University Press, ISBN:025333182X
  2. László Somfi, The Keyboard Sonatas of Joseph Haydn: Instruments and Performance Practice, Genres and Styles, 1995, The University of Chicago Press, ISBN:0-226-76814-7
  3. Bernard Harrison, Haydn's Keyboard Music: Studies in Performance Practice, 1997, Clarendon Pr, ISBN:0198163258
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