高校の頃、音楽の時間に隣の席に座ってあれこれやっていた北住淳(あつし)君は、天才的なピアノ弾きで、東京芸大に入ったあとリスト音楽院に留学した。その後は地元に戻って音楽活動をやっているが、以前サントリー音楽財団の若手音楽家演奏会などにも出たのをメンバー表で見たりして、活躍してるんだなと思ってはいた。
夕刊に「トリオ・ミンストレル」というアンサンブルが9/14に行った演奏会についての“「オジさん」の魅力全開”という記事があって、何となくタイトルに親しみを感じて読んでみたら、何とここに北住が登場している。第一生命ホールでドビュッシーの前奏曲、ベートーベン、ピアソラ、モーツァルト、ブラームスのトリオといったプログラムだったようだ。
最初の音がでた瞬間、ぐっと引き込まれる。技術や表現力は確かなのだが、それだけが理由ではなさそうだ。バイオリンが仕掛けてチェロがぶつかり、ピアノが引き取る―そんな丁々発止のたび、奏者の目元や口元に浮かぶ笑みを見て、これだ、と合点した。剛にして柔、しなやかな演奏に比べ、はじけきれず照れくささの残るしぐさ。そんな「オジさん」の魅力にひきつけられていたのだった。音楽の中身が濃いからこそ、そのアンバランスが楽しめる。(2002-10-05朝日夕刊)
星野学氏はたいそうな誉めようだが、確かに北住には尋常ならざるアンバランスという魅力はあったな。ちょっと検索してみたら、「怪物と形容するしかほかない北住のピアノ」という評も見つかった。えー、CDもでているのか。懐かしいと同時に、ちょっとわくわくする話だ。東京はデビューコンサートだったということだが、次にやってくる時は、ぜひ演奏会を聴きに行きたいものだ。