『ハイドン復活』(1995,春秋社)の著者で、ケルン・ハイドン研究所でパリ交響曲の校訂にも携わった中野博嗣氏の新著『ハイドン交響曲』が春秋社から出版された。ちょうど全集のCDを買ったところでもあり、読み物としては絶好のタイミング。

前著でも触れていた、現在の「ランドン版」校訂楽譜の問題点を指摘しながら、ハイドンの交響曲に関する最新の研究を紹介しているので、話題にリアリティがあり興味深く読める。特に、校訂者として実際にどんな手順や作業で楽譜を決定していくかを具体的に述べているところは、ハイドンだけでなく、楽譜一般を演奏者、鑑賞者の立場でどう読むべきか示唆を受ける点が多い。

難点は、N響の『フィルハーモニー』などに掲載した複数の原稿をまとめたものであるため、同じ話の繰り返しが多いところ。ランドンの業績をいったん評価したうえでその問題点を例示し、ハイドン研究所の優れていることを示していく話は、同じ論法で何度も出てくるので、だんだんうんざりしてくる。しかし、引用されている例などは少しずつ異なっており、全部を読まないと情報は不足してしまう。これらは本にまとめる際にきちんと整理して書き直すべきで、編集上の手抜きと言われても仕方ないだろう。

学者文というのか、紋切り型の修辞が必要以上に使われているのも読みにくさのひとつ。中野氏のスタイルを借りれば、《ランドン版の問題点と校訂のありかたについて新しい視点を提供しえている点は評価されなければならないが、編集努力の不足による冗長さとステレオタイプの表現が読みにくさをもたらしていることを痛切に感ぜずにはいられない。ただしこの本が重要な示唆を提起しえている事実は、くりかえし強調されてよいであろう》というところか。

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