イントラネットを構築しよう

コンピュータ業界の流行語は本当に次々と登場するもので、こないだまでグループウェアが次の世代の中心になるはずだったのが、今ではイントラネットに変更された模様。インターネットのホームページはそろそろ見切りを付ける企業も出てくるといわれていますが、そういうところもイントラに関しては熱心なようです。これだけ注目される仕組みなのですから、私たちにも何か利用できるところがないか、覗いてみることにしましょう。

イントラネットって何だ?

近頃では書店のコンピュータ・コーナーに行くと、急に『イントラネット入門』の類が目に付くようになりました。インターネットが世界中のネットとネットの間(インター)を結ぶ大きなネットワークなら、イントラ(=内側)ネットは企業の内部の「インターネット」ということになります。何だか分かったような分からないような話ですが、簡単にいえば、インターネットで培われたオープンで柔軟な技術を使って、企業内の情報システムを構築しようというような考え方です。

詳しい説明を始めると本が何冊も書けてしまいますが、ポイントとしては

・特定の企業に縛られないオープンな技術(ソフト)を組み合わせられる

・競争が活発でフリーソフトも多いのでコストが圧倒的に安い

・プラットフォーム(機種)を問わない仕組みが構築し易い

・柔軟で手軽なシステム構築が可能

などがあげられるでしょう。

これらはシステムを構築する立場での視点ですが、では利用者からみたときは? イントラネットの中心的な機能は電子メールとファイルやデータベース共有です。それじゃグループウェアと同じではないかって? その通り。イントラネットは、使う立場から見ればグループウェアそのものです。ただ、これを手軽に柔軟に、そして格段に低コストで実現できるために、企業で導入熱が高まっているのですね。また、テキストファイルを中心にした仕組みなので、データの汎用性、流通性が高く寿命が長い点も見逃せません。

ファイル共有を通しての「イントラ」

まあこういうわけですから、ブームになっているイントラネットは、ある程度大型のネットワークを想定したものです。手軽とはいえ基盤となっているのはTCP/IPというインターネットの技術ですし、サービスの種類ごとにサーバーを運用するクライアント/サーバーの手法を使います。まともに取り組もうと思ったら、専門のネットワーク管理者をおいた組織でないと手に負えません。

しかし、イントラネットの定義はさておき、その精神だけを取り出してみれば、「オープンで手軽な情報共有環境」をつくるということです。これ自体は、小さな組織、部署の単位でも十分意味のあることでしょう。

たとえば、NetscapeなどのWebブラウザは、WWWサーバーを通してでなくても、直接ファイルを表示することができます(図1)。もちろん画像も使えますし、ハイパーリンクも働きます。情報をHTMLで記述してファイルサーバーに保存し、適切なリンクを用意しておけば、これだけでも実用的な情報共有が可能です。ファイル共有を応用した「セミ・イントラ」と呼んでもいいでしょう。これならば今日からでも実行に移せそうですね。最初はこのレベルから始め、徐々にネットワークの技術を学んでいけばよいのです。

そして、将来WWWサーバーを設置することになっても、このファイルはそのまま生かすことが可能です(図2、3)。このような柔軟性、そして小さな規模から始めてだんだん機能を充実させていけるというスケーラビリティ、これがイントラネットの魅力でもあります。

イントラネットとTCP/IP

イントラネットのメリットは、Windowsなどの他のシステムを使っている部署も含めて、メッセージの交換や情報共有を簡単に実現できるというところにあります。また、WWWサーバーを設置すれば、Webブラウザから情報を検索したりインタラクティブな仕掛けを作ることも可能です。こうした機能を十分に使うためには、ファイル共有による「セミ・イントラ」ではなく、必要なサーバーが働く「イントラネット」環境を用意しなければなりません。

通常のファイル共有とイントラネットの一番の違いは、TCP/IPという仕組みを導入するところにあります。以前、マッキントッシュのネットワーク上ではAppleTalkという言葉(プロトコル)を話すのだということを説明しました。インターネットやイントラネットという様々な機種が混在する世界では、マック同士だけで通じる言葉ではなく、世界の共通語を使う必要があります。これがTCP/IPです。インターネット用の(そしてもちろんイントラ用の)ソフトはすべてTCP/IPを前提にしていますから、まずマッキントッシュにこれを用意しなければなりません。

TCP/IPとアドレス

TCP/IPの準備は簡単です。コントロールパネルの中にMacTCP(OpenTransportの場合はTCP/IPですが、ここではMacTCPで統一します)があれば第1ステップはOK(図4)。見あたらないときは、システムディスクなどからコピーしてください。次にMacTCPを開き、それぞれのマッキントッシュにアドレスを割り当てていきます。

アドレスとは、ネットワーク上でコンピュータを識別するための番号です。AppleTalkでは、アドレスの割り当ては自動的に行われ、利用者は複雑なことに煩わされる必要はありませんでした。TCP/IPの場合は、これを自分たちで管理しなければならないのです。

TCP/IPでは、IPアドレスという32ビットの番号がインターネット上のあらゆるコンピュータに与えられます。インターネット・プロバイダに接続するとき、192.144.1.17のような数字(32ビットを8ビットずつ4つの部分に分けて表わしています)を設定しますね。これが個々のコンピュータの識別番号になるわけです。

本来IPアドレスは公式機関に申請して割り当ててもらう必要があるのですが、下に示した範囲のアドレスは、それぞれの組織内に限って自由に使うことができます。ここでは、(C)のレンジにある192.168.0.1から順番に当てはめていくことにしましょう(将来ほかの部署との接続を考えているときは、アドレスが重複しないようきちんとした計画が必要です。会社のネットワーク管理者に相談してください)。

*閉じたネットワークで使用できるIPアドレスの範囲
(A) 10.0.0.0 〜 10.255.255.255
(B) 172.16.0.0 〜 172.31.255.255
(C) 192.168.0.0 〜 192.168.255.255

だだし、これらのうちいくつかのアドレスは特別な意味を持つので、個々のコンピュータに割り当てることはできない。たとえば(C)の範囲を使うときは、一番右が0と255になっているアドレスが予約済みのものとなる。

MacTCPを設定する

さて、ようやくMacTCPの設定です。まず最初のウィンドウで、接続しているネットワークを選んでください。LANの場合は通常LocalTalkかEtherTalkのどちらかになります(図6)。続いて「More...」ボタンをクリックして少し細かい設定です。

アドレス取得の方法は「マニュアルで」を選びます(インターネットにダイヤルアップ接続するときは「サーバから」を使いますね)。ゲートウェイは0.0.0.0のまま。IPアドレス欄はクラスとして「C」を選び、あとはそのままにしておきます。ドメイン・ネーム・サーバの情報は、今回は使いません(図7)。

以上を設定したら「OK」をクリックして図6の画面に戻り、先ほど割り当てた192.168.0.1などのIPアドレスを記入してコントロールパネルを閉じます。これで1台分の設定が完了しました。あとは同じことを全てのマッキントッシュに行います。TCP/IPコントロールパネルの場合は図8のように設定してください。

Hostsファイル

マッキントッシュを再起動する前に、それぞれの機械に名前を付けてあげましょう。先ほど割り当てたアドレスは数字の羅列ですが、これはやはり使いにくいものです。インターネットでは、mycom.co.jpのような形で、アドレスを指定することができますね。AppleTalkでも「共有設定」でコンピュータにニックネームを付けることができます。これと同じように、数字のIPアドレスに対応する文字の名前を付けることができるのです(図9)。

このためには、「Hosts」というファイルを使います。SimpleTextなどを用いて次のようなものを作成してください。

    ;Hosts file
    ;
    ;ネットワーク上のMacintoshに、アドレスに対応した名前を付ける
    ;セミコロン(;)より後ろはコメントとみなされる
    ;左からname  type  addressの順に記述
    ;typeはA (address) としておく
    ;
    ;
    www.prdept      A    192.168.0.1
    boss.prdept     A    192.168.0.2
    jango.prdept    A    192.168.0.3
    gatsu.prtept    A    192.168.0.4
    kan.prdept      A    192.168.0.5
    ...

マッキントッシュ1台につき1行をあて、

ニックネーム  A  IPアドレス

という形式で列挙するのです。このファイルを保存して、全てのマッキントッシュのシステムフォルダにコピーし、再起動します。これによってイントラネットのアプリケーションは、マシンをニックネームで認識できるようになるのです。

さあ、これで準備が整いました。次回からは実際のイントラ・アプリケーションをいくつか導入してみることにしましょう。

(MacFan 1997-02-15号)