パソコンを自分のものにするために
SOHOのためのパソコン講座 - 5 -

せっかく購入したパソコンは十分に使いきらないともったいないことこの上ない。けれども、現実にはさまざまな障害にぶつかって、1ヶ月もしないうちにお蔵入りになるという話も耳にする。パソコンに限ったことではないが、最初が肝心だ。ここでうまくペースをつかむと、パソコンはあなたの片腕としてこれから先おおいに活躍してくれるに違いない。逆にここで躓いてしまうと、何をするにもうまく行かず、コンピュータは次第に粗大ごみと化していく。シリーズの締めくくりは、いかにしてパソコンを自分のものにしていくか、スタートに際しての付き合いかたをお送りする。

少しでもよいから毎日使う

最近では週末ホテルに缶詰になって、何十時間も集中してパソコンの使い方を学ぶというコースがあるそうだ。スタートダッシュ大いに結構である。これでコンピュータが使いこなせるようになるのなら、何万円もの出費も高くはない(かもしれない)。

けれども、短期間で叩き込んだことは、使わないでいるとすぐに忘れてしまう。それにどんな習い事でも、いったん休んでしまうと再開するのがおっくうになり、だんだん遠ざかってしまうのはだれしも経験のあることだ。それならば、個人学習でよいから、毎日少しずつコンピュータに触るという習慣を積み重ねることの方が大切ではないか。ウサギとカメのような、ありふれた話になってしまうが、結局はこれが一番重要なポイントなのである。習うより慣れろなんて、まさにこのためにあるような言葉だ。

パソコンに向かうということが大事件ではなく、ごく普通の日常のありふれた行為になること。

さらに、パソコンをツールとして使いこなすためには、気が向いたときにすぐ使える環境を用意することが大切である。アイデアが閃いてから電源を入れているのでは、エディタ画面を開いたころには発想も冷めてしまう。

だから、とりあえず用がなくても電源を入れ、寝るまでつけっ放しにしておこう(消費電力など高が知れているし、頻繁に電源の入切を繰り返すよりハードウェアにも負担がかからない)。常に画面が開いていれば、何かインプットしてみようかなという気にもなるものだ。

全部一度にやろうと思わない

パソコンを購入したときは、張り切っているから、どうしてもあれもこれもと気合いを入れがちである。が、力みすぎると、やれソフトのインストールがうまく行かないとか、なんとかカードがないからこれが実行できないとかで、苛々に陥りやすい。フル装備でなくたって、パソコンは十分に役に立つのだけれど。

ソフトウェアにしてもそうだ。最初からワープロや表計算やデータベースをそろえて全部マスターしようなどと考えることはない。前にも述べたように、当面手元にはエディタ程度があれば十分なのだ。一つのソフトに集中した方が、あれこれ悩むことも少ないし、結局その方が成果も上がる。

また、たとえば住所録を作るとして、あらゆる情報を網羅した壮大なデータベースを目指してしまうあなた。顧客の趣味や誕生日、家族構成まで含んだ名簿ができたらそれは強力に違いないが、そんなものをつくるのは並大抵ではないから、常に欲求不満の状態になる。あるいは、在庫と売り上げをすべて自動計算するようなワークシートを作り始めたけれども、どこかの関数が一個所正しくないためにまったく役に立たず、結局放り出してしまうというのもありがちなケース。

最初から、完璧を目指すのはやめておこう。少しずつこつこつやっていけば、いつのまにか他では得られない充実したデータベースが出来上がる。情報なんて、そんなものだ。

ひとつ得意なものを作る

少し進んだ段階で実践的なアプローチとして薦めたいのが、ひとつのソフトを徹底的にマスターしてしまうというものである。たとえば、第3回で取り上げたエディタでもよい。練習用の文書をつくり、メニューに用意されている機能を片っ端から使ってみよう。あらゆる機能をくまなく試すのだ。少しぐらい変なことをしてもパソコンは壊れたりしないから、安心して実験すればいい。手ごろな参考書があれば、そこの例題もすべて実行してみる。こうしてあれこれいじくりまわしているうちに、操作方法に一定の法則があることがわかってくるはずだ。

最近のWindowsやMacintoshのようなシステムだと、どのソフトも基本操作は共通している。たとえばメニューの一番左には「ファイル」という項目があって文書の保存などを受け持っており、そのとなりの「編集」という項目はコピーや取り消しなどの機能を持っているといった具合だ。ということはつまり、どれか一つのソフトに習熟すれば、ほかのものもある程度類推で使えるようになるということだ。これは見かけ上のメニューだけの問題ではなく、ひとつのものを使い込むことで、ソフトウェアの全体的な構造が頭に入るという点が重要である。こうなれば、初めてお目にかかるソフトでも、ほとんどマニュアル無しで自在に使うことができるだろう。いろんなものを少しずつつまみ食いするのに比べ、学習曲線が急カーブを描いて伸びてくのである。

タッチタイプを習得する

最後の提案は少し欲張ってみた。タッチタイプとは、キーボードから目を離し、原稿や画面だけを見ながら入力していくタイプの技法のことである。もちろん伝統の一本指打法でもコンピュータは使えるが、ある程度以上のレベルでの活用を目指すなら、幾ばくかの時間と労力をかけてもタッチタイプを身につけるべきだ。情報を蓄積するためには、インプットが苦痛でないようにしておくことが重要だからだ。

タッチタイプというものは大変なようだが、毎日少しずつ練習すれば1週間程度で思いのほか成果があがる。そしてこれを習得した人は、情報に関する生産性が10倍以上になること請け合いだ。だまされたと思って取り組んでみることをお勧めする。

今回紹介したのは、ごく当たり前のことばかりである。ところが、いざコンピュータを前にするとなぜか強迫観念にとらわれ、自分で首を絞めてしまうことが多いようだ。相手は所詮機械、主人公は自分自身であることを思い出そう。たかがパソコン、恐るるに足らず。マイペースで取り組んで、愛機を存分に活用していただきたい。

(初出:「酒販ニュース」96年5月21日号)